瀬戸内

□不器用な恋の物語
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毛利家を守ろう。
父、母、兄、そして甥が生きた証を後世に残そう。


親兄弟での殺し合い、家臣の裏切り……それが日常の戦国の世において、信じられるものは己のみ。忠誠など信じぬ。同盟など信じぬ。信じるから裏切りに遭うのだ。今更特別な事ではない。

そうして中国を平定した頃には、何も感じなくなっていた。
何を見ても、心が動く事はない。
誰も、我を動かす事など出来ぬ。
そう思っていた。
「西海の鬼」と対峙するまでは。


「淋しい奴だな。幸せなんて、いくらでも転がってんのによ」
理解不能な事を真面目な顔で吐く男が癪に障った。
「何も感じねェなんて嘘だ。目ェ逸らして、耳を塞いで、逃げてるだけだ」
好き勝手な事を言う。
「本当は淋しいって思ってんだろ?」
「馬鹿馬鹿しい」
「……んだと?」
「貴様が我に何を見、何を感じたのかは知らぬ。だが、それを我に押し付けるな」
人の心が解るなどと、思い上がりに過ぎぬ。ただの自己満足だ。
「愚かな」
「どうも、あんたとは話が噛み合わねェな……」
「問答など端から無用。来るが良い」
「……やれやれ」
ようやく諦めて口を閉じたかと思ったが、
「今度四国に来いよ。いいモン見せてやるぜ」
理解不能な事を言って、笑った。
「無理なら、俺が来てやるよ」
「……」
言葉が出て来なかった。何を言っているのか、理解出来ぬ。
「毛利」
「?」
「またな」
「……!ま、待て!」
隙を突いて、長曾我部が碇槍に乗って逃走した。
「……何だったのだ?」
反応すら出来ずに、その背中を見送る事しか出来なかった。


「あ、アニキ!」
「野郎ども、引き上げるぜ!撤退だ!」
号令を飛ばすと、子分達が一斉に動き出した。
「何かいい事でもあったんスか?」
「あぁ、まぁな。面白いモンを見付けた」
「へぇ、お宝ですか?」
「……お宝?あぁ、そうだな。宝だ」
自覚がねェのが面倒臭ェな……どうやって落とそうか。
 ――今度四国に来いよ――
あん時が一番面白ェ面してやがったな。
元就が微かに表情を動かしたのを、元親は見逃していなかった。
「アニキ、やけに楽しそうっスね」
「ははは、あぁ。これから面白くなるぜ」
西海の鬼が楽しそうに笑った。



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