瀬戸内

□BASARA de クリスマス
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大きな袋を担いで高松城へ乗り込んできた男達がいた。
門番と挨拶を交わしながら酒を差し入れ、女中達には綺麗な布地。広い庭に城中の人が集まり、賑やかになった。
「騒がしいぞ。何事か?」
賑わいに気付いた城主の毛利元就が縁側に出てくると、城の人間達は一斉に頭を下げた。そのまま立っている者達が騒ぎの元凶、瀬戸内の海を縄張りとしている海賊達だった。
「ぃよう、毛利!メリークリスマスッ!!」
真っ赤な衣装に身を包み、長曾我部元親が元気一杯に手を振って笑った。
「日本語を喋れ、馬鹿者が」
「え〜と……クリスマスおめでとう」
「…」
「え〜〜〜〜と、クリスマスはキリストの降誕祭……キリストとはイエス=キリスト?の事で、その誕生を祝う日で…元々は家族で過ごす日とか何とか……はぁ?」
誰に書いてもらったのか、メモを読みながら首を傾げる元親に、元就は痛む頭を押さえながら自室へと引き返す。
「あ、ちょっと待てよ!あんたにもちゃんと持って来たんだぜ!」
「頼んでおらん」
「待てってッ!!」
制止の声を無視し、元就が奥へ行ってしまった。途端に城詰の人々がホッと安堵の息を吐いた。そんな周囲に明るく笑い掛け、
「野郎共、しっかり盛り上げていけよ!」
元親は部下達に声を掛けた。すると、待ってましたと言わんばかりに部下達が飛び上がって喜んだ。そして、元親は元就へのクリスマスプレゼントを袋から取り出し、城主の後を追って勝手知った廊下を進む。

「入ってくるな」
戸を開けると同時に飛んでくる冷たい言葉にもめげず、長曾我部元親はニッコリと笑って持ってきたプレゼントを毛利元就の前に置いた。
「何だこれは?」
「ツリー代わりの盆栽と、ケーキ代わりのカステラ」
「我は日本人だ」
「あぁ、俺もだぜ」
どうにも会話が噛み合わない。元就は溜め息を吐き出し、
「結構な物を頂き、礼を言う。用が済んだのであれば、早々に帰るが良い」
淡々と言い放った。
「何だよ、久し振りに逢ったのに冷てェな。ま、そんな事より……」
元就の言葉も右から左へ聞き流し、元親は持ってきた荷物の中から小さな手作りの星や靴、そして白綿などを取り出した。マイペースな男に腹立たしさを覚えつつ、何をしているのかと、元就も取り出されるものを見ていた。色とりどりの紙で作られた小さな星を元就に手渡し、元親が胸を張って笑った。
「これ全部俺の手作りなんだぜ。あんた、こういうの苦手そうだし作ってきたんだ」
「一言余計だ。……だが、器用なものだな」
「ははは、そうか?ありがとよ」
星の頂点に糸が通され、吊るせるように作ってあるそれを見下ろし、
「これをどうしろと言うのだ」
元就は困惑しているようだ。表情の乏しい男の感情を読み取る事は難しい。だが、それを見付け、気付く事の出来る元親は同じように星型の飾りを取って、盆栽に引っ掛けて見せた。
「こうしてツリーを飾っていくんだ。本当はもっと前に飾り付けして、クリスマスが終わったら片付けるんだとよ」
「すぐに片付けなくてはならないのであれば、飾る必要などないではないか」
「今日だけでも飾って置いとけばいいじゃねェか。来年はもっと早く来るからよ」
「……我は日本人だ」
やれやれと嘆息しつつ、元就は男が綺麗に飾り付けしていく様を見ていた。白綿を散らし、松の盆栽の頂点に一回り大きな星を被せて出来上がり。
「出来たぜ。盆栽でも可愛いじゃねェか」
「……でも?」
「あぁ、本当はモミの木に飾るんだとよ。家族皆で飾って、肉食って、ケーキ食って、酒飲んで、騒いで寝る。楽しそうじゃねェか」
「……そうか?」
元就は宴会のようなものだろうかと首を傾げた。
「来年は慶次や政宗を誘って、城を飾ろうぜ。そうだな…ランプを大樽一杯買ってきて、天守に巻くか。遠くからでも光って見えるぜ」
「目立ってどうする。攻め込んでくれと言っているものだ」
「クリスマスなんだから別にいいじゃねぇか」
「我は日本人だと何度言えば解る」
「ははは、俺も日本人だって」
明るく笑う元親に、元就は痛む頭を押さえた。
「ほんとにあんた心配性だな。別に攻めてきたって、あんたと俺と慶次、それに政宗が居りゃ怖いものなしだろ?下手すりゃ、暑苦しい真田も入るかも知れねェし、誰も怖くて攻めてこねェよ」
言われて、確かに自分だったら落ち着くまで待つだろうと考え、元就はやれやれと諦めにも似た溜め息を吐いた。どうにもこの男にはペースを乱されるのである。
元親がケーキ代わりのカステラを切り分けていると、頃合を計ったように女中がお茶を持ってきてくれた。ここの城詰の人達は指導が隅々まで行き届いていて、元親はいつもながら感心する。それは、表情を崩さずに鎮座している城主の周りに、優秀な人物がいるからに他ならない。そして元就がそれを従えるだけの力量を持っているのだ。凄い男だと内心で舌を巻きつつ、元親は惚れ直すのである。
「今日は餅菓子じゃねェが、たまには違うのもいいだろ。これで酒があればいいんだが、まぁいいや」
細かい事に頓着しない元親は明るく笑ってカステラを元就に手渡した。
「洋菓子など買って……」
「あ〜あ〜、貯蓄しろだろ?解ってるよ。あんたへのプレゼントだから奮発してんだ。文句言うなよ」
「…」
大切にされていると言うことだろうか。元就は言葉を飲み込み、微かに口の端を上げた。そのほんの少しの変化に気付いたのか、元親が嬉しそうに笑った。少しずつでも距離は縮まっているのだろうか。次は年始の挨拶。その時はどうしようかと考えを巡らし、楽しそうにしている男に笑みを誘われつつ、元就もカステラを食べて、賑やかなひと時を楽しんだのだった。

その日、飾り付けされた盆栽が城主の部屋を飾り、見る者の心を和ませたとか、そうでないとか。



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