短編

□小さな勝利
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なんだぁ、あいつは・・・。
オレが1週間も任務で不在だったのに駆け寄ってこねぇ。
急いで帰ってきたオレだけが会いたいみてぇじゃねぇか。

いつもなら抱きついてくる。
キスを落とせば嬉しそうな顔して可愛く笑うんだぁ。なのに・・・、なんだ?あの冷めた態度は?

オレがいない間に何かあったのか?
機嫌を損ねるようなことはしてねぇ・・・はずだぁ。


「帰ったぜぇ」
「お疲れ様」


オレがドアの前から動かず声をかけたが・・・。
見向きもしねぇ。

ボスのとこに最初に行ったのが気にいらねぇのか?
いやっ、真っ先に報告するのはいつものことだよなぁ。

ズカズカと進み入り、オレの部屋のソファに寝そべっている真樹に近づいてみれば視線は手元の本に注がれていた。

・・・本?
こいつっ、また!


「う゛おぉい!また悪い癖が出やがったのか!!」
「ごめんね。今、目が離せない展開」


夢中になると他が見えなくなる真樹。
恋人であるオレが傍にいてもだ。
気にいらねぇ、すぐにその本を切り刻んでやるぞぉ!


「オレが帰ってきたんだぜぇ」
「うん、おかえり」


素っ気ない。
こいつは極稀に平気でこういう態度を取りやがる。


「こっち向けぇ」
「あとでね」
「・・・・・」


苛々は増すばかり。
怒りてぇ!
邪魔な本を取り上げればいいだけだ、だが・・・それはマズい。

前に一度勢い良く怒ったことがある。
その時はなんとかっつうドラマのDVDだったが、取り上げたら倍になって怒りと不機嫌が返ってきた。
1週間無視され触るのも禁止。
とにかくあん時はオレが悪くねぇのにオレが散々な目に遭ったぞぉ。


「もう読み終わんのかぁ?」
「あと2冊」
「う゛おぉい!まだ2冊もあんのか」


真剣に読んでいる真樹は文字を追い、返事はしてくるが本以外眼中にない。
どうにかして自分に視線を向けさせたい誰もが恐れるヴァリアーのスクアーロ隊長は考える。


「真樹は忙しそうだな」
「うん」
「なら一人で飯食ってくるぞぉ」
「いってらっしゃい」
「前にお前が旨ぇと絶賛してた店だぁ、また行きたがってたよな」
「・・・・・」
「それと・・・ヤキモチ妬くなよ」
「・・・・・」
「お前が隣に居ねぇと女が寄ってくるかもしんねぇからな」


ニヤニヤと意地悪そうな顔で言うと真樹の肩がピクリと動いた。


「それは・・・」


おおぉ、食い付いたか!?
早くこっち向け。


「今から浮気してきます宣言と解釈していいのかな」


念願叶って帰宅してから初めて向けられた視線は背筋の凍るような冷ややかなものだった。


「ちっ違ぇ!!」
「浮気したら即別れる約束、覚えてるよね」
「浮気なんかしねぇ!!」
「だったら私が2冊読み終わるまで待てるよね」


いや、待てねぇ。


「その顔、待つ気はなさそうに見えるけど」
「一緒に行けばいいだろ。本はオレがいねぇ時に読め」
「・・・ふぅ」


真樹が小さくため息を吐いた。


「お゛ぃ?」
「今読みたいの、やっと届いたんだから!」


わざわざ取り寄せたのか。


「もういい!読書の邪魔するなら浮気目的の食事でもいいから行ってらっしゃい」
「はぁ!??」
「私はお腹減ってないし」
「浮気しねぇって言ってんだろうが!アホかっ」
「・・・・・」


興味無さげに真樹はまた本に視線を戻した。


「・・・聞いてんのかぁ?」
「・・・・・」
「う゛お゛お゛ぉい!!」
「うるさい」


このっ!!
うるさいだと!?こいつはっ!


「っ!とにかく飯食いに行くぞ」
「だから行ってらっしゃい、私に許可とらなくていいから」
「女が絡めば怒るくせに、素直になれ!可愛くねぇぞぉ!!」


まったく動く気のない真樹の態度に苛立ちが増し舌打ちが出た。
結局最初から一人で行く気はなく、スクアーロはシャワーを浴びるため真樹に背を向けた。

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