chocolate

□初恋勇者 《プロローグ》
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 だが目を覚ました彼女は、素肌の感触と共に俺の背中へ抱きついて来た。


「啓路、今日は1日ここに居てもいい? 」


 返事が出来なかった、無言のままベッドから立ち上がりオイルヒーターの電源を入れるとそのまま散らばった服の中から自分のデニムを履き、しわくちゃのワイシャツをひっかける。


 過去、共に創ったゲームブック、そのバッドエンディングの1つである『お姫様は魔王に翼を与えられて飛び去った』が行き着いた答えなんだから早く帰れよ。


 態度でそう示しても彼女はベッドから動かず、クリーム色の毛布で体を包んだまま。


「俺、ヘーキだから……」


 17年前、幼い俺が掛けた魔法の呪文を一字一句間違わずに彼女が口にした瞬間、抑え切れなくなった想いが再び爆発してそのままベッドへ戻ると夜になるまで愛し続けた。


 大人だから口だけでは想いを完全に伝える事が出来ない気がして、大人だから相手の状況を理解しても尚諦め切れなくて、大人だからこの場で彼女を壊そうとして……。


 狂ったように名前を呼び続けて、激しくなる雨の中で体温の低下を再び感じないように熱く熱く。
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