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□初恋勇者 《プロローグ》
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春の夜明けの寒気に夕べの熱い体温はもう消え去り、窓の外へ目をやれば薄明るいものの重くどんよりとした空の下、満開の桜の花弁が雨と強い風に耐え切れず無数に地面へ白く零れ落ちていて何ともみじめな姿を晒していた。


 きっとこれは最後の魔王との戦いに敗れた未熟な勇者が、再び引き摺り戻された迷宮の入口で目にしたであろう虚しさに満ちた光景と同じかも知れない。


 あの幸せは最終戦を目前にほんの一瞬、魔王の気まぐれで与えられた幻覚、いわばフェイク・エンディング。


 そう分かっているのに傍らで眠り続ける彼女は俺が目を覚ました後も消えず、いっそ消えてくれていれば少しは楽になれたのにと目を逸らすように視線を再び窓の外へ戻す。
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