銀色はいすくーる

□8時間目
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「さ、出来ましたよ」

『わぁ〜』



先生が圧力鍋を開けると、ふわっと湯気が立ち上る。

そして、中から見えたのはとろける程柔らかそうな豚の角煮。

先生は丁寧にそれを皿に盛った。



「はい、これが完成です。
 本来時間がかかるものですので、完成したものは今日食べるのではなく…
 明日に食べることにしますよ」

「せ、先生!今日は食べれないんですか?!」

「勿論、みんな週一のこの日を楽しみにしてきたことと思いますよ。
 だから、今日は!」

「「「「今日は?」」」」

「一班で二つの料理を担当し、一つは角煮。
 もう一つ、好きな料理を作って今日食べることにしましょう」



と、黒子のような人達が先生の前にザーッと豊富な材料を運んでくる。

どこかでテレビ撮影でもしてるのか?と思うぐらい、手際が良く、見た感じも料理番組で見る感じ。



『すごいね、私角煮は作ったことないから楽しみ!』

「あら、作ったことないの?」

『うん!日本料理はあんまり作らないんだ…
 でも、その代わり外国のポピュラーな料理は大抵学んでいるの。
 お手伝いさんがいないときは、私が作らなくちゃいけないから…』

「あら、大変なのね?」

「よし、それじゃあ…
 今回の班編成は僕と妙ちゃん、神楽ちゃんに瑠奈ちゃんの四人だな」

「お待ちなさい!」



突然背後から声がする。

その声の主は猿飛あやめ、通称さっちゃん。

それに対して周りは、いつの間に…と言わんばかりの表情である。



「お妙さん、貴方銀八先生に媚び売ろうと料理に熱心になっているのね?!
 そんなの断固阻止してやるわ!私の方が、もっとおいしい豚の角煮でもなんでも作ってやろうじゃないの!」

「猿飛さん、いい加減にして下さる?
 ウザ過ぎて、邪魔くさいの。
 つかどっか行け」

「あらあら、お妙さんってば。
 どうせ、私の方が料理上手だからイラついてるの?」

『あ、九ちゃん。
 私角煮手伝うよ』

「あ、すまない」

「じゃあ私はなんかフリーダムするネ!」

『うん』

「まぁ、黙って見てなさい。
 私が作れば、誰だってイチコロよ!」

「自意識過剰もほどほどにしたらどうです?
 ていうか、そんな料理貴方に作れるわけがないわ。
 どうせ、ご飯の上に納豆でも乗せてはい完成みたいなのを作るんでしょ?」

「なめるんじゃないわよ!
 他にも、納豆を使って………」



と、意味もない上にくだらない争いを無視してちゃっちゃと料理を進める三人。

神楽は早速材料をバッと根こそぎ持ってきて、何を作るか考える。

対の九兵衛と瑠奈は、豚肉や卵、ネギ等を持ってくる。

適当な形に包丁で切り、豚肉は先に焼いてから圧力鍋へ。



『へぇー…これなら、私でも作れるかも』

「覚えるのが早いな、瑠奈ちゃんは」

『えへへ、ありがとう』



頭をかいて照れる瑠奈。

その後ろでは…



「ちょっと!そんなのたべられるわけないじゃない。
 そんなんじゃ、先生を満足させることなんてできるわけないじゃないの!」

「何が悲しくて、あんな天パを満足させなくちゃいけないのかしら」

「なんですって?!
 それじゃあ、あたりはまるで馬鹿みたいじゃないのよ!」

「あら、違いました?」

「キ――――ッ!」

『………ま、まだ終わらないのかな』

「あの2人はいつもあんな感じなんだ。
 多分、止めても無駄だと思う」

『そ、そう…
 あ!神楽ちゃんは、何を作ってるの?』

「ん、どうアルか?コレ」



神楽が作っていたのは、なんとも大きな……

ハンバーグだった。



『わ、わぁ…大きくておいしそう、だね』

「…見事なくらい大きいな」



アハハ、と溜め息をつきながらどんどんと大きくなるハンバーグを眺めていた。

あれ、そんなに材料ってあったっけ?



『よ、よし!とりあえずちゃっちゃと作って、神楽ちゃんのハンバーグ食べちゃおう!』

「それもそうだな」



九ちゃんも同意して、焼いた豚肉と圧力鍋においていく。

それから、他の材料もまとめて入れて一旦火を通す。

更にその間に、茹で卵も作って殻をむく。

これが一番地味でかつ辛い作業なのである。


それをし終えて、圧力鍋に調味料とゆで卵を入れて更に火を通す。



『…これでいいのかな?』

「レシピ通りなら…コレで、後は置いておくだけ、だと書いてある」

『じゃあ、後は待ってようよ』

「それより、妙ちゃんは…?」

『あ………そういえば』



覚えていたけど、料理に夢中ですっかり忘れていた。

慌てて背後を見てみると、2人の姿はなかった。

どこだろうかと調理自習室をくまなく探してみる。

しかし、2人の姿はなく………



『…うぅ、大丈夫かな?』

「まぁ、妙ちゃんのことだ。
 きっとすぐに戻って来るさ」

「その通りヨ!
 姉御達もお腹を空かせてここに…」

『そ、そんな…子供みたいな甘い考えなの?!』



シュッシュッと圧力鍋が音を鳴らす中、私たちは突然いなくなった2人を待つ。

しばらくして、いい匂いが私と九ちゃんの鼻をくすぐる。

なんだろうか、と匂いのする方を見てみた。



『…わぁ、おしいそう!』

「見事なハンバーグだな」

「フフン、これでもハンバーグだけはお得意アル!」

『へぇー…え?!ハンバーグだけ?!』

「流石に中華料理店の娘なだけあるな、神楽ちゃんは」

『神楽ちゃんって、中華料理店の娘さんなの?』

「そうアル、マミーは死んじゃったけど、パピーが1人で頑張ってるヨ。
 私もたまに手伝ってるネ、だけど出来るのはいつもハンバーグアル」

『「(…な、何故)」』

「兄ちゃんは、家出て全く帰らないネ。
 アイツさえいれば、私が手伝ってハンバーグばかり生産する必要もなくなるって言うのにィィィ!」

『ま、まぁ…これからも頑張って、ね』

「んー?分かったアル」



ポーンッとフライパンから、ハンバーグを投げて形を崩さぬまま、見事皿の上に盛る。

…確かに、とても上手だった。



『凄いねぇ…ハンバーグは』

「確かにおいしいな…ハンバーグは」

「何アルかその倒置法。
 センセー!私のハンバーグどうアルか!」

「うーむ…」



一口、二口と食べた先生の感想は…

ゴクリ、と生唾を飲む。

この先生、一応世間で有名な料理評論家でもあり、調理士免許を楽々合格ゲットというすんごい人なのだ。

まぁ、ぶっちゃければ三ツ星シェフより凄い、らしい。噂では。



『………』

「………」

「そうですねぇー…」

「どうアルかっ!」

「美味しいです」

「…いよっし」

「ハンバーグは」

ズドンッ!
「くっそォォォ!なんで付け合わせが駄目アルか!」

「神楽さん、貴方何度もハンバーグ作ってますけど…
 確かに色んなバリエーションがあって素晴らしいです。
 しかし!!!何故付け合わせが毎度酢昆布なのですか!!!」

「肉と昆布は絶妙な組み合わせアル!
 ホラ、しゃぶしゃぶとかでも昆布だしでしゃぶしゃぶって」

「それとハンバーグは違うでしょう!!!」



そりゃ確かに…

というか、そんな観点で付け合わせがコレに行きついたのかな…

それとも、ただのいい訳か…



『でも、ハンバーグはとても美味しいよ!
 そうだ、あたし今度神楽ちゃんの家に行ってみようかな〜?』

「本当アルか!ハンバーグ作って出迎えるアル!」

『え、ハンバーグはもういいよ〜…
 (ちょっと飽きたかも…)』

「僕は妙ちゃんを探してくる。
 瑠奈ちゃん、料理の方任せていいか?」

『うん、いいよ?』

「あぁ、柳生さん。あの2人なら大丈夫です」

「しかし、先生…っ!」

「2人なら、もうじき帰って来ますから。
 いつものことでしょう、気にしては負けです」



ハァ、と溜め息をつく先生。

恐らく今までにも数回以上経験したうえでの言葉だろう。

その上・・・結構回数が多いだけに、もう疲れて放置、というのが正しいのかもしれない。



『ま、まぁ…多分その内戻ってくるよ。
 お妙ちゃんが…』

ズル、ズル…
「あら、みんなもう出来ちゃったのね?
 残念、私も手伝いたかったのだけれど」

「あぁ、すまなかった。
 時間も少なかったものでな」

「姉御ーゴメンアル」

「あら、いいのよ?別に」



そう言って、妙がドスンッという地響きを鳴らす程の音を上げて何かを置いた。

何だろう…?と近付いてみてみると………



『え、え…?
 これってもしかして…』

「さっちゃんアル!」

「一体何があったんだ、妙ちゃん」

「えぇ、実はね………?」



神妙な顔つきで、真面目に話し始めた。


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