灰華蒼月珠
□幽世のボクより-2-
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どうやらおかしなことになっているらしい、ということがようやく理解できたのはしばらくの時を置いてからだった。
めんど……、大変なことになってしまった。ぼう、っとした視線を横に向けながらレンカは考えた。
頭の両サイドに黒髪を束ねた少女の顔が、こてんと首をかしげながらレンカの方へ振り向いた。
「ね、レンカ! ちょっとこれ、見てくれない?」
「ん? ああ、ごめん……どれのこと?」
「これなんだけど、どっちの方がいいと思う? まよっちゃって決められないの」
そういう少女の手には、シンプルな髪飾りと可愛らしい髪飾りが握られていて。うんうんと唸りながら、一生懸命に考え込む少女は見ていて愛らしく思う。
「……もうっ、レンカってば、きいてるの?」
「うん、聞いてるよリナリー。わたしはそっちのシンプルな方が、似合うと思うのだけど」
はっとして、慌てたように右手を指させば、リナリーは「ほんとうに?」とレンカのことを訝しげに見ていたものの、直ぐに機嫌を直してくれたようでほっとした。
器用に左右のツインテールに飾りをつけた少女は、にっこりとほほ笑んだ。その場で取り繕うように決めてしまったが、リナリーのような顔立ちの女の子にはシンプルな方が可愛らしさを引き立てていて良いような気がした。
二夜、幽世のボクより
もやりとした重たいものを振り払い、意識を覚醒へと向ける。レンカが目を開き周囲を見回すと、そこは何処か知らない場所であった。ぐるぐると忙しなく視線を向け、自分が今誰かのベッドに寝ているらしいことが分かる。
身体を起こして疑問を浮かべながらもとりあえずベットから降りて、近くにあるクローゼットの中をあさった。
「……たぶん、子どもの服……かな」
たぶん、とつけたのはそれがどことなくゴシックの雰囲気をうかがわせたからだが、――このご時世だからまあ、こういう服を着る子どもも珍しくないのかもしれない。
ぱっと見たところ、他には木製の机と、幅の狭い小さなテーブルくらいだろうか、他にある家具は。机の引き出しの中には、雑多に並べられた櫛や鏡なんかの小物類。なるほど、どうやらここは子どもの、それも少女の部屋だということを推測していたら、トントンとドアをノックする音が聞えた。
「ねぇ……レンカ、もうおきてるかしら? よかったら、一緒にごはんを食べにいかない?」
ひょっこりと顔を出したのは、ふわりとしたツインテールの少女だった。