灰華蒼月珠

□若きときこそ-3-
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 はっとして、次いで嘘だと思った。成功する見込みがないことは、幼いリナリーにも分かっていたことなのに。だからこそ恐怖して、レンカが今度連れていかれた時にはもう……。自身から「な……」とか、「え……」なんて途切れた言葉にもならない短音が口からもれていることにも気付かずに、うっすらと微笑むレンカを見つめる。


「……エクソシスト、になったんだって」

「エクソ、シスト……?」

「うん、エクソシスト」
  

 後で聞いた話だが、そうして現れたレンカの適合率は、恐ろしく低かったらしい。けれども彼女はなんてことのないように発動を行ったし、今までとなんら変わりはないように見えた。……長時間の睡眠をのぞいては。
 周りはまるで彼女が初めから適合者であったように扱ったし、適合率はどうとでもなるとばかりに訓練を強要した。それでも、リナリーは嬉しかった。エクソシストの"仲間"が出来たのだと。



三夜、それから、それから。



 月日はたち。レンカの体もそれなりに成長した。イノセンスとの発動を繰り返し、任務もなんとかこなせるほどになっていたが適合率の方はあい変わらず。もともとイノセンスとシンクロすることに適していなかったこともあり、突発的な睡眠を必要とした。だが、それも幼少のころだけで、大きくなる身体に合わせて遅々としてではあるがイノセンスは心臓に溶けていく。いきなり眠ってしまうようなことは無くなったものの、任務中にそうなってしまっては教団は世界中から苦労して集めたイノセンス――適合者を"一つ"失うことになる。無理をおして発動をして、その度に倒れるように眠ってしまっては戦場でのレンカの存在は、言ってしまえば役立たず。そうなると任務どころではなくなるため、それを避けるためにも自然と前線に立つよりもサポート要員としてファインダーの紛いごとをしている方が多くなった。
 そんなレンカであるが、ここ最近は大規模な任務には当たっていない。短期間で近場をまわっては、収穫も無く教団に戻る日々を続けていた。


「神田とラビはしばらく任務。残った子どもはわたしとリナリーだけだねえ」

「ラビはともかく、神田に子どもなんて言い方をしたら怒るわよ、きっと」

「まあ、確かに。でも歳が近いって意味で深い意味はないんだけどなあ、おこちゃまっていう言い方でもよさそうだけどね」


 レンカはにやにやと笑う。それに対してリナリーは「もうっ……」と呟いたあと、苦笑した。
 あれからレンカが居る教団にも、適合者の子どもが増えた。それが良いことなのか、悪いことなのかレンカには判断がつかない。戦場に子どもが駆り出される現状よりも、リナリーが明るくあることの方がレンカには大切だった。いくらレンカが騒ごうとも、自分やリナリーが戦場から退くことが出来るわけでもない。それならば盲目的と分かっていようとも、今は目先の楽しさを優先させても誰かが何かを言う訳ではない。


「そういえば……兄さんが、ラビから任務の報告を受けたって言ってたわ。もうすぐ教団まで帰ってくるって」

「そうなの? 随分と早いね、その分だと今回のはガセだったのかな。イノセンスが喋ってくれたら、随分と手間が省けるんだけど。『へい、姉ちゃん! ぼくはここだぜ!!』ってさー」

「そんな下品なイノセンスは嫌だわ」


 
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