D灰番外など
□見ないふり
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「やあ、ティキ・ミック卿。こんなところで何をしているの?」
「ああ? レンカじゃねえか」
たまに一人で町をふらついているとこれだ。立場上敵同士だと理解はしているため、無視をしてとおり過ぎようとしていたはずが思わず話しかけてしまった。何をやっているんだ、ボクは。
ビン底の分厚い眼鏡を掛けている彼が、あのティキ・ミックだとは誰が思うだろうか。ビフォー、アフターで詐欺レベルだ。眼鏡だけで違うのか、一回眼鏡をはずしてしまいたい気がする。
「……その眼鏡を掛けている君とは、隣を歩きたくはないな。君の仲間たちは優しいね」
「眼鏡を外したら歩いてもらえることを喜ぶべきなのか、貶されたことを悲しむべきなのかどっちがいいと思う?」
「お好きな方で。ノアじゃ無い時の君は、残念なにおいがする」
「……少なくとも、この格好じゃないときは残念じゃないってことでいいんだよな? おい、そんな悲しそうな目でみるなよ」
と、まあ。ここまでが戦闘時以外での彼とボクとのいつも通りのキャッチボールだ。
任務とは名ばかりに、虱潰しに奇怪な噂があるところをまわらされているわけだけれど。こういう時に限って、彼によく会う気がするのは、決してボクの気のせいでは無いはずだ。一般人としての彼とやり合うつもりはボクにはなくて、たぶんそれはティキ・ミック卿も同じだろうと考えるのは浅はかなことかな。
「今ここで君のことをぶっとばしたら、ボクは殺人犯に間違われちゃうのかな」
「やめろって、少なくとも俺たちはお前を殺そうなんて気はねえよ」
「俺たち、ねえー。この場所で戦闘しようなんて気はボクにもないよ。あ、そうだ」
ボクはティキに向かって、にっこりと笑ってみせながら。
「ティキは立派な大人でしょう? ボクはお腹がすいてきたような気がするけど、どうする?」
「おいおい……今日は無理だって、さっきほとんど掏られてきたばっかりだから」
「う……っ!! さっきアクマに抉られた傷が……!!」
「そんな状態で腹の中に物なんて入れない方が、――分かった! 分かったから、うずくまるな! 周りから俺がいじめてるみたいに見られるだろ!? やめろ、すみません、分かったから!」
うう……と唸りながら、周りをうかがう。確かに、少し注目を集めてしまったかもしれない。ごめんよ、そんなつもりは無かったんだ、と棒読みで言ってあげようか。
「良い大人が賭けごとなんてしてないでよ、仮にもそれなりの家の弟ってことになってるんでしょう、ノアの時の君は」
「あっちの俺と、こっちの俺は違うからなー」
「そんなことばっかりしてるから、ボクみたいなガキにたかられるんだよ。恥を知れ!」
「これだけは確実に言えるが、それはお前が言っていい台詞じゃねえよ」
と、この程度には交流があったりする。みんなに知られたら、物凄い勢いで罵倒されそうな気もするが、こんな日が時々あるくらいなら構わないかなんて楽観的に考えてしまいながら。空き時間はまだまだ長くあるし、もう少しくらい遊んでいてもいいだろうか。