短編

□追手
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あたたかな、温もり

それは、彼じゃない、風間千景のもの。


ねえ、逃げられないの?

この手からは、逃げられないの?


「どうして、私なの!どうしてよ!触らないでよ、私に、さわんないで・・・」


「南奈」


「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!もう放っておいてよ、お願いだから!私は!「南奈!」・・・え」


「此処で初めてとやらを失うのと黙るのどっちがいいのだ?」

妖しく光る赤い瞳

弧を描く唇


「っ!?」


全身から、血液が抜けていくように

冷え切っていく体

きっと血の気が引いるだろう

こいつならやりかねない

だから怖くてたまらない

私は、好きでもない相手とそんな行為したくないの・・・・

彼が、よかったの・・・


ツー

両目から静かに零れだす雫

目の前の鬼は

その涙を拭う

自らの舌で私の頬を撫で上げる様に

そして

重なる唇


「んぁ・・・」


「フッ」


嫌なのに、嫌なのに、
受け入れたくなんか、ないのに・・・


ゆっくりと、浸入してくる鬼の舌

逃げようと退く私の舌を絡めとって

いやらしい水音を漏らす


「やっ・・・んっ・・・ふぁ、ぁ・・・」


拒みたいのに、そんな力さえ吸い取られているようで・・・

官能的な気分におとされるよう


クチュッ、ピチュッともれる音

まだまだ動く事をやめず、口内を犯す鬼の舌


「はぁっ・・・んっ・・・は、ぁ・・・」


どれくらいそうしていたのだろう。


やっとのことで離れた唇

銀色の糸が私たちを繋ぐ


「どうして・・・」


「今は、教えぬ。
知りたければ俺のところに来るんだな。
嫌といっても、逃がさないが。」


そういって風間千景は、私の体を強く強く抱きしめた。




絡めとられた



その腕から



逃れる事は決してできないだろう・・・






⇒あとがき
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