短編

□君が望むなら
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今日はいい天気だ。
空が青く澄み渡り、暑苦しい太陽がさんさんと照っているけれど
程よく風も出ていて気持ちがいい。
夏の香りが漂う今日この頃、私はせっせかと洗濯をしていた。
千景のと、不知火のと、天霧さんのもの。
流石に男性の衣類と自分の衣類を一緒にして洗うのは抵抗があったため、別々に洗っている。

ふわり、とあの人の匂いがした。
あの人の気配がした。
だから、洗濯していた手を止め後ろを振り返った。
当たり。
両手が濡れていることなんかすっかり忘れて駆け寄った。
彼はにやりを笑みを見せ、その笑みに毎度毎度やられてしまう私。

「千景」

「ああ。」

さらさらの金色の髪が風に揺られ踊っていた。
怪しく光る彼の瞳から、目が離せない。
ゴクリ、と小さく息を呑んでから「どこかに行くの?」と問う。


それを待っていたかのように彼は笑みを深くし、嬉しそうに答えた。


「千鶴の所に行ってくる」

「っ、・・・そう。」


大方予想はついていたけれど、こうも直球に嬉しそうに言われてしまえば
予想はしていてもかなり凹んでしまう。

「着いて来るか?」

私の答えなんか、分かっているくせに。

「行かないよ。」

「何故」

いつもは、理由なんて聞かないくせに。

「洗濯あるもん。」

「本当に、それだけか?」

何で、そこまで聞くの。
ばか千景。

「うん。私忙しいからさ、早く行って来なよ、じゃあね。」

作り笑顔が崩れてしまう前に、私は千景に背を向けた。
鋭い千景のことだからバレてるかもしれないけど、
どうか気づいても、見て見ぬフリをしてほしい。
私が望むべきことじゃあない。

小さく、肩を震わせて、洗濯に戻ろうと一歩踏み出す。


「お前が、」

ビクッ

今度は大きく肩を揺らして、数秒止まってまた歩き出す。


「お前が望むなら、」


「ッ・・・・・」


「ずっと傍に居てやろう。」


「く、ぅ・・・っ」


ねえ、どうして今日に限ってそんなに優しいのかな。

ねえ、どうして今日は晴れなのに雨が降ってるのかな。

ねえ、どうして私、千景のこと
こんなに好きなのかな。


「す、き」


まるで初めから知っていたかのように
私の言葉を聞いた彼はこれまでないくらいに口角を吊り上げた。

私はこれまでないくらいに、涙を流しながら千景に飛びついた。
 

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