短編

□桜の舞う日
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「あ、あのありがとうございます。助けてくださって・・・」


少女は刀を抱きしめ、丁寧にお辞儀をした。


「ん?別に。京の治安を守るのが僕の仕事だし」

僕の言葉を聞き、彼女はもう一度だけお辞儀すると
あの大きな桜の木の下に腰を下ろした


「うっ・・・」


耳に届く小さな嗚咽は彼女のもの。


よほど怖かったのか
もう死んでしまうと思ったのか

彼女は静かに涙を流した


僕は、そんな彼女をちょっと離れたところから見つめていた

涙を流す少女は鞘から刀を取り出し

「さようなら」

瞳を閉じ

腕を、自分に向かって真っ直ぐ進め始めた


僕は音を立てず、そばに駆け寄り


「待った」

刀を寸前のところで止めた


「え・・・」


僕を見て彼女は驚いている様子

もう居なくなったと思っていたんだろうね


「女の子が自害なんてやめなよ。」


お節介かもしれないけどね。

あれだけ恐怖していたのに、どうして死のうなんて思うんだろう?

どうして、命を張って守ろうとした刀で死のうとするんだろう?


「もう、生きる意味なんかないんです。
父も母も殺された・・・もう私に居場所なんかない!」


あぁ
きっと、さっきの浪士たちだ

彼女は先程よりも深い絶望に染まり
だけど、純粋で綺麗な涙をほろほろと落とす


痛々しくて
綺麗で
儚くて

放っておけなかった

他人の命なんて、僕はどうだっていいのに

誰が何処で死のうが、僕に関係ないのに


僕は指で、彼女の瞳から流れる雫達を拭った


「生きて」


たとえ酷なことでも

僕は君にそうしてほしかった


「えっ・・・」


「こんな立派な刀があるんだから、頑張って剣術でもやってみなよ。
生きる意味なんて、なんでもいいんだからさ」


生きる意味なんて、なんでもいい

僕は新選組を守りたい

近藤さんとともに進みたい

だから生きる

それだけ


僕は彼女の頭をそっと撫でる


「剣術が上達したら、また此処で会おう」

守れるか、どうかも分らないけど

それでも僕はまた、彼女に会いたかった


桜の舞う日

僕は君に恋したみたい
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