短編

□桜の舞う日
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「あ、あのありがとうございます。助けてくださって・・・」


「ん?別に。京の治安を守るのが僕の仕事だし」


ペコリとお辞儀をしてから、私は桜の木の下に座り込んだ。

幹に持たれかかるようにして



「うっ・・・」



安心してきたのか、それとも実感か

涙が、勝手に流れてくる


今家に帰ったら、お父さんもお母さんも居るんじゃないか

でも、違う


目の前で息を引き取った


もうこの世には居ない


私も


死んじゃおうかな


そうしたら


寂しくないよね


私は鞘から刀を取り出し

自分の心臓へと刃先を向けた


「さようなら」


かたく、瞳を閉じる

腕を自分に向かって真っ直ぐ進める


「待った」


「え・・・」



カタカタと揺れる刀の音

私の心臓に刺さるか刺さらないかというところでとめられた


あれ、沖田さんまだ居たんだ。


「女の子が自害なんてやめなよ。」


「もう、生きる意味なんかないんです。
父も母も殺された・・・もう私に居場所なんかない!」

そうだ

帰る場所も

生きる理由も

全部、失った。


再びあふれ出す涙


その雫を丁寧に拭う細く長い指


「生きて」


「えっ・・・」


「こんな立派な刀があるんだから、頑張って剣術でもやってみなよ。
生きる意味なんて、なんでもいいんだからさ」


先程浪士たちにむけた表情とは全く違う
優しげな笑顔がそこにはあって

舞い散る桜が一層沖田さんを引き立てた


何でこの人はこんな事を言うのだろう

私が死んでも何も困らないというのに。


沖田さんは私の頭を撫で、「剣術が上達したら、また此処で会おう」

そう言って彼は丘から去っていった

肩にに一枚の桜の花びらを乗せて・・・


桜の舞う日

私は貴方に恋をした
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