薄桜鬼

□狂気の腕はただの腕
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私はフッと軽く息を吐いた。




(きっと、
ちょっと疲れてるんだよね。)




もう寝ようと思うのに、
腕は何を探すのかうまく動かない。




――刀だ




刀を求め、
腕が動くのに心は死を恐れ、
刀を拒絶する。




(矛盾してるな。)




ハァと今度は大きく息を吐いた。


布団から出、
外に出た。


冬ももう近く、
風が肌を刺すかのように冷たかった。


その時に、
自分が裸足なのに気がついた。




(どうりで冷たいと思った。)




地面のひんやりとした冷たさは今日は氷のように感じる。


足に伝わった冷たさは、
そのまま全身を駆け巡り、
私の心まで凍らすような気さえする。


そのまま私はしゃがみ、
地面に自分の腕を当てた。


ひんやりとした冷たさとは、
別のつめたさが私の腕を麻痺させる。




(私の手はおかしくなっちゃったのかな……)




もう人の暖かさを感じることができない。


人の冷たさだけを記憶した腕。




冷たい刀を握り締め、
冷たくなった体から引き抜く。


嫌な音とともに、
赤い水のあふれる姿に目が離せない。




(私、羅刹になっちゃったの??)




『羅刹になってたら良いのに』

そんなふうに考えたことがある。


羅刹が血を求めるのは吸血衝動があるから。


私は別の意味で血を求めてしまう。




世界が少しでも多くの血を取ることで、
私の敵が減っていく。


その恐怖によって狂っていった腕を空に掲げた。




(醜い……)




真っ赤な血液がよくはえる真っ白な腕。


細く、長い指。


そしてしなやかで、
鞭のような腕。


まるであつらえたかのような腕。




(みんなは思う訳ないよね。
この腕が私を狂気にさせるなんて……。)




その完璧すぎる腕を
祥は何度斬り落そうと思っただろう。


幾度となく刀を構え、
腕にあてる。


少し動かしただけでその狂気に満ちた腕は
ただの肉となる。


真っ白な腕の下は奇麗な桜色をしていて、
その中から真っ赤な液体が垂れる。


上に掲げると、
その血が垂れてくる気がした。




先ほどよりも冷たい風が吹く。





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