薄桜鬼

□とある夏の風景
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今日も今日とて俺は
いつものように道場に来、
剣の練習をしていた。




季節は真夏。




今日は特に暑い。




そのせいか今日は
道場には誰もいない。




最近のこの暑さだけでも
嫌になるのに、
わざわざもっと
熱気がこもるここに来るのは
俺だけのようだ。




ひとしきり竹刀を振った後
竹刀を置き、
布で汗をふく。




この暑さでどうにか
なってしまいそうだ。




「……暑い。」

「そりゃそうでしょ、一君。
こんな暑い中にこもって
練習してたらねぇ。
ハイ水。」




ぽつりとつぶやいた
言葉に返事して
俺の前に竹筒をつきだしたのは
新撰組預かりになっている
千鶴と千祥の姉妹の姉、千祥だ。




千祥のヤツも
暑そうに袖で額の汗を拭っている。




「……すまぬ。」

「ん、別にいいよ。
倒れられたら運べないしね。」




そう言って笑う千祥を
俺は無言で軽く睨んだ。




「睨まないでよ、一君。
その後ろの殺気はなんでしょうか。」

「俺はこんな暑さで倒れるほどの
やわなヤツじゃない。」

「はいはい分かりましたよ。
でも水はしっかり飲んでね。
出た分とんなきゃ。」




千祥の言うこともごもっともなので
竹筒を受け取っておく。




黙ってもらった水を飲んでいると、
千祥のヤツがこちらを
見ていることに気付いた。




「…・…なんだ。」

「ねぇ、一君。」




千祥は俺の腕を抜いていた
着物の腕の部分を持った。




「なんでいつも上下つながってるの
着てるの?
みんな袴なのに。
動きづらくないの?」

「……別に。」

「……ふぅん。」




適当に答えておいたもの、
千祥は納得していないのか
不思議そうに見たままだ。




「僕ね、
寝るときはじゅばん
着てるんだけど
はっきり言って動きづらいんだよね。
じゅばん着たままなんて、
勿論あぐらかけないしさ
この前に、早朝に幹部と僕たちに
収集がかかったじゃん。
あの時、たまたま千鶴はもう
着替えてたんだけど
僕はじゅばんのままだったんだよ。
で、走りづらかった。」

「……なんだそれは。」

「あれっ?
……あっ、あんとき一君夜勤明けで
いなかったんだよ。
大丈夫。
そんな大切な内容じゃなかったから。」




そう言って笑う千祥に
俺はなんだか複雑な気持ちになった。




勿論、収集に呼ばれなかったから
ではない。




(じゅばんのままだと……!?)




じゅばんとは着物の下に着るもので
下着までとは言わないが、
普通は隠すものだ。




(こいつは女と言う
自覚がないのか……!?)




男としては開いた口が
ふさがらない。




「……おい。」

「ん、なに?」

「……副長は何て言ってた。」

「えっ?」




うーんと顎に手を当てて
考え込む千祥。




するといきなり「あっ」と
声を上げた。




「土方さんはね、
上衣貸してくださった!」

「……上衣?」

「うん。
呼ばれたのが土方さんの部屋でね、
まだ誰もいなくて、
まだ朝は冷えるからって。」

「……そうか。」




さっきよりはましだが、
なぜかこれも複雑だ。




「ね、どうしたの一君。
変な顔してるよ。」




うつむいていた顔を上げると




――顔。




千祥の顔があった。




「――っ!!」






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