短編

□アルトリコーダー
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ゴクソツはナカジの部屋の前で思案していた。通常ならばゴクソツが来ることはない場所である。しかしここ数日ナカジがまったく姿を現さないため、ゴクソツは来てみたのだが…。

ぴー ぴー ぴひゃ

先ほどから笛の類いと思われるものの音が部屋から聞こえるのである。それは奏でるというよりはただ鳴らされているというのが正しいだろう。その哀愁というか何とも言えない雰囲気に、ゴクソツは扉を開くことができないでいた。

ぴー ぴー びー ぴ…

立ち尽くして数分。急に音が止んだ。他の音は何も聞こえない。ゴクソツは埒があかないと悟り扉を開けた。

「今日は……?」

そこにはリコーダーをくわえたまま無表情のナカジがいた。ただでさえ表情がわかりにくいというのにだ。

「なにをしているのですか」

ナカジは応えない。かわりに、手を離されたリコーダーがびーびーと音を出した。

「なにをしているのですか」

ぴー ぴひー

「応えないのですか」

ぴー びー

「…来ないのはなぜですか」

び…

再び笛の音が止まる。少しの間を空けて、ナカジはリコーダーを無造作に置いた。

「応えてくれますか」
「…お前にはいつも黒猫がいる」

ゴクソツは少し考え、黒猫とはなのこのことだと気がつく。ついでに、この不器用な彼の思いにもなんとなく当たりをつけた。多分、いや絶対に彼は妬いているのだ。しかしそんなことを言おうものならこれ以上拗ねるに違いない。またリコーダーを鳴らしはじめたら厄介だ。

「そんなことですか」
「そんなことで悪かったな」
「そんなことで僕は何日も貴方に飽きられたと不安にならなければならなかったのですか」
「そんなこと…!」

予想外の言葉にナカジは言葉を止める。ゴクソツだって、不安というものはあるのだ。ただでさえ数少ない人間の友人。いや、それ以上かもしれない。失うのは怖いのだ。

「…悪かった」
「今度このようなことがあったらわたくしは貴方を閉じ込めてしまうかもしれない」
「申し訳ない」

ひょっひょっと笑うゴクソツに対して、若干青ざめているナカジ。かくして謎のすれ違いは幕を閉じた。


Fin...?


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