neta


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廊下ですれ違った女の子に足を掬われ、不様に尻餅をついた。

痛い。と同時にコンクリートの冷たさがじわじわと服を伝ってきた。
硬い痛い冷たい。なのに立てない。女の子がオレの肩を押さえている。

足で。

なんで踏まれているのか分からない。動こうとしたら容赦なく踵で肩を抉る。打ったお尻以上に痛い。
が、オレは正直それに講義するどころではなかった。

女の子は並中の制服を着ている。つまりはスカートだ。
片足をオレの肩に乗せて、真正面に立つ彼女は、オレから見たら、その、下着が丸見え、というか下着しか見えない体勢なわけで。
白。とか観察してる場合じゃないのは分かるけど、つい目がいってしまうのは中2男子の哀しい性。顔が熱い。多分真っ赤だ。鼻血でてないかな大丈夫かな。



「ご注意ください」



機械のような声がした。

と同時に、グラウンドの方から爆発音。
え、ダイナマイト?獄寺君?一瞬嫌な予感がしたが、違う。ダイナマイトより、もっと大きな爆発。女の子のスカートで隠れた視界の隙間から、閃光が目に刺さった。
何、何、何が起きてんの!?



「これより1nmでも動けば―」



機械のような声は、爆音の隙を縫って耳に届いた。



「―死にますよ、沢田綱吉」








act.1

機械化ノイズは警報音








咄嗟にぎゅっと目を瞑った刹那、二度目の爆発音が鳴った。爆発音に紛れて、ガラスが割れる音もした。地響きが、座ったままのお尻にずーんと伝わる。
尋常じゃない衝撃に、ただ事じゃないのが良く分かった。またマフィア関係かと、嫌な汗が流れる。どうしてこう、一難去った後に続々と後を連ねて厄介事が降って来るのだろう。
もう嫌なのに。巻き込まれるのも、巻き込むのも。

不意に、肩の重圧がなくなった。
おそるおそる目を開くと、肩に掛かっていた足は地を踏んでいた。周りに散らばるガラスの破片。丁度オレを避けるように、辺りは破片だらけ。その中に細い足がすっと伸びて、制服姿の女の子が――



「えっキミ!」

「何でしょう」

「何って、血!血が出てる!」



女の子はきょとんと首を傾げる。その拍子にぽたたと血が廊下に降った。スプラッタ。去年の自分なら確実に失神していただろう。不本意にも耐性がついてしまったのが悲しい。全然嬉しくない。
オレが指差す先を辿って、漸く気づいたのか、袖で無造作にこめかみを拭う。着いた赤色をじっと見て。

あぁ。

と、納得したように頷いた。



「大丈夫です」

「いやいやいやいや!どう見ても大丈夫じゃないから!早く保健室に―」

「貴方が気にかける必要はありません。それより、早く移動しましょう。ここは危険です」



切って捨てられた。でも、放っといていいわけない。
なのに反論する間もなく、オレは腕を引かれ立たされる。足は震えていたけど、辛うじて立てた。そのまま手を取られて、走り出す。
女の子は足が早い。ぐいと引っ張られて、浮きそうになりながらも必死でついていった。
あんなに血が出てるのに、走って大丈夫なの?でも足取りはしっかりしているし、あの場所じゃ危険なことには変わりない。

走っている間にも外からは爆発音。それに閃光、煙、地響き。
真っ直ぐ走っているように見えて、女の子は僅かに左右へ導く。その度に、衝撃に負けて割れた窓ガラスがすれすれを飛んでいった。
何この状況?頭はついていかないけど、でも、この子は確実に自分を助けてくれている。味方?マフィア?もうわけがわからない。

そろそろ息が上がってきた。女の子は一瞬こちらを振り向くと、右を指差す。曲がり角だ。そのまま真っ直ぐ行けば階段なのに、使わないらしい。



「止まります」



また、機械のような声。
言った通りに、女の子は走るのを止めた。曲がって直ぐだ。
全力疾走から上手く曲がりきれなくて、遠心力で体が回る。女の子に強く腕を引っ張られて、壁に衝突せずに済んだ。あぁ、何か情けない。



「落ち着いてください。息を吸って、ゆっくり吐いてください。一分後に、移動します」

「ちょっ、待ってよ!キミ、何なの?何でこんなことになってるの!?他の人は!?」

「詳しい説明は逃げ延びてからいたします。それと、ご安心ください。今この学校内に一般人はいません」

「良かったぁ…じゃなくてっ」

「現在三階にいます。二階なら飛び降りても支障はありませんが、三階となると怪我をする恐れがあります。先ずは階下を目指しますが、室内の階段は危険です。よって、ここを奥に進み、中庭側の非常階段を使用したいと思います。
移動中は極力声を出さず、私の誘導に従って頂きますようお願い申し上げます」



「沢田綱吉」と、最後にオレの名前を呟いた。
丁寧だけど、有無を言わさない語調。無意識の内に頷いてしまうと、一礼して進行方向を睨んだ。










 
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