「…土方さん?」
「あ?」

道場のまん真ん中に大の字に寝転がっている土方に、惣次郎は木刀片手に唖然とした。目はジッと天井に注がれ動かない。そろっと視線を天井にやっても、そこにあるのは煤けた木目だけだ。

「ふん。何もねぇよ」
「…」

惣次郎は何と答えたものか悩んで、黙っていた。

「正式に入門したんだ」

寝込んで天井を見上げたまま、歳三は弾んだ声で惣次郎に話し掛けた。
多摩の豪農の末っ子だと云う歳三は、武士になるのだと常日頃から言っているが実家から道場への入門を許されてはいなかった。だが黙って言う事を聞くような男では無く、行商ついでにあちこちで手解きを受けている。試衛館でも勝手に鍛錬を行っており、流派云々云えるような物ではないが、そこそこに使えるようにはなっていた。だがやはり腰を据えて鍛錬したいと言う本人が望むものとはあまりにかけ離れていたのだろう。時折見せる鬱々としたきつい視線に、惣次郎は気付いていた。

「やっとだ」

惣次郎に何かと良く為てくれている歳三の喜ぶ様子に、惣次郎も嬉しかった。これできっと、あんな顔を見なくて済むのだ。口元に笑みが浮かぶ。


「おい、惣次郎」
「はい」

歳三はゆっくりと上半身を起こすと胡座に座り直し、長い脚を両手で体に引き寄せて、真っ直ぐ惣次郎の顔を見つめた。

「お前に勝つぜ」
「─負けませんから」

視線がぶつかり、どちらともなくニヤリと笑った。


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