長編集

□明告鳥
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『竹 林』


チュン チュン …

昨晩の余韻か、珍しく早く目が覚めた。離れに大勢で押し込められ、毎晩雑魚寝。間近で吐息を感じても、視線が熱く絡み、潤んでも触れるわけにいかなくて…悶々と苦しい日々を過ごしていた。だが昨晩の、総司の闘気に包まれ、静かにしかし艶やかに、双眸は凛と強く、口許を引き上げた人に在らざるような微笑みを浮かべた姿に、またあの複雑な感情が沸き立ち、どうにも堪えきれずに寺の境内まで連れ出し抱いた。確かにこれは総司なのだと、確かめたかったのもしれない。
久しぶりのせいか、何時もなら拒む形での交わりもすんなり受け入れ、積極的ですらあった。思い出して硬直する。蠢めく肢体…反り返る背…絡み付く秘所…紅い唇…揺らめく瞳

(やべぇ…)

朝から何を考えているのだと、じわり変化した自身に自分で呆れる。軽く頭を振って妄想を吹き飛ばし、顔でも洗って落ち着こうと決めて、部屋中に転がっている面々を注意深く跨いだ。
改めてみると、むさくるしい事この上ない光景だ。きちんと自分の布団に入っているのは、近藤と山南、井上だ。原田は何処へ行ったのだろう?枕に足が乗っているのは藤堂に違いない。部屋の隅に折り重なっているのは、ああ、原田か。その下敷きになっているのは斉藤だ。永倉は…途中で逃げ出したのか階段の下に布団ごと移動している。総司がいない事に気付いた。何処へ行ったのだろう。永倉同様、どこかへ避難したのだろうか?気になりつつも外に出て、落ち着くのが先だと井戸端へ向かった。

縁側に出ると、庭の隅に寝間着のままの総司が小さく膝を抱えて座りこんでいるのが目に入った。こんな所に居たのかと安堵したが、晴れた空とは不似合いに、瞳を伏せ眉間に皺寄せて何やら思い詰めている様子。それにしても、何故庭の隅?と、不思議に思って声をかけた。

「…何やってんだ?」
「あ、おはようございます…珍しいですね、こんなに早く」

よほど思い詰めているらしく、その顔は地面に向けられたままだ。心なしか声も沈んでいるようだ。

「何だよ、昨日は随分イイ声だったくせに、今朝はまたえらく不景気だな?そんな隅っこに丸まって…」
「昨日は昨日、今日は今日です。それに庭のまん真ん中に居たんじゃ皆さんに不振がられるから隅にいるだけです。」

少しは頬を染める等の可愛い仕草を期待して言ったのに、バッサリと切り返されて拍子抜けしてしまう。

「どっちにしても変だろ。こっちに来いよ」
「…嫌です」
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