長編集

□明告鳥
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「ぅん…」

壬生寺の本堂脇に総司はその白い肌を晒していた。着物の両肩は背の半ばまで既にずり落ち、黒髪が揺れる隙間から滑らかに煌めく背中を覗かせる。裾ははだけて足の付け根も顕で、そこから侵入している土方の、臀部を揉みしだく手の動きが着物に波を描いている。

「ったく…こういうとこはすっかり大人だよなぁ」

階段に座った土方の腰に抱き抱えられるように跨り、足を絡ませきつくしがみついている。向き合い時折口付けながらゆっくりと動き、土方をやんわり締め付ける。潜った嬌声じみた声が洩れている。
まだ、波は総司の中で渦巻いていた。近藤との話を終え、話があると土方に呼ばれ、夜遅い人気の無い境内に来ると、いきなり引き寄せられた。普段なら抗がうのだが、今日はすぐに身を任せた。身体がうずいて仕方なかった。熱に浮かされたように、いつになく激しく求め、自ら土方の上でその身体を揺らしていた。

「お陰様で…
「総司…」
「はい?」

眉根に皺を寄せ、総司の起こす波に身を任せていた土方の声音がふいに変わった事に気付き、その動きを止めて視線を合わせた。

「殿内は俺達を小馬鹿にしている。」
「ええ、そのようですね」
「俺は構わねぇ。だが…」
「先生は違いますから」

土方の言葉を引き継いで、先を促した。
先程交わされた会話が脳裏をよぎった。終始冷静だった土方に対し、近藤は珍しく熱くなっていた。自分達とて同じ流派の門弟、あからさまな言葉や態度で愚弄された訳ではないが、端々に見え隠れするそれを感じない訳でもない。だが実際江戸で無名の小さな道場、流行りの竹刀剣法でもない。もしかすると殿内は理心流を今まで知らなかったのかもしれない。理心流の生え抜きでもある総司はこれから名を上げれば良いと思っているし、江戸市内は元より、あちこち歩き回って世間を見てきた土方に至っては、ある程度仕方無い事だと割り切っているはずだ。だが、近藤は違う。彼は“宗家”なのだ。総司や土方とは背負う物があまりに違う。

「さっきはいろいろ言ったが、これは理心流…近藤さんの面子の為だ。だからこそ総司、お前に頼むんだ。俺のように雑流でない生粋の、理心流一の使い手にな。殿内に、理心流を…俺達を見せてやれ。」
「分かってます。しくじるなんて馬鹿はしませんよ。…大丈夫です。」
夜風で冷え始めた身体を土方に預け、耳元で囁いた。
京に来て、せわしない日々が続いていた。後見を失い、ただの浪人の集まりに過ぎなくなってしまいそうな十数名を、何とか形にする為に、近藤や土方が奔走しているのを皆分かっていた。ただ見ているだけで何も出来ない自分が本当に子供に思えて、虚しく待つ時間が苦痛で、無力な自分が悔しくて。だから、例え人殺しだろうとも初めて必要とされた事に、今まで感じた事の無い異常な程の高ぶりを覚えたのだ。

「私はお二方の懐刀ですから、ナマクラと言われぬよう精進します。」
「頼む。…なぁ」
「何ですか?」
「お前は…変わるのか?」
「え?」
「いや、何でも無い。」
「…っ!」

突然再開された情事に、小さく悲鳴をあげたが、続いてあがる声はすぐに熱を帯び始める。煽情的に瞳を濡らし、与えられる快楽の濁流に身を任せながら、それとはまた違う抑えきれない高揚感に総司は酔いしれていた。
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