長編集

□明告鳥
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『密 談』


3月──温かい日差しが満ちていた。総司は八木家の縁側に腰をかけ、嬉しそうに菓子を食べていた。子供の頃食べられなかったせいか、酒も好きだがこういう甘い物も大好物だ。
色取りどりの小さな粒を抓んでは口に放る。甘くてほっとする味が最近とても気に入っていて、時には一人隠れて口いっぱいに頬張る事もある。

「殿内を殺る」
「んぐっ!!ゲホッ!ゲホッ!…もう、突然何ですか?おかしなとこに入ったじゃないですか!」

一番見られたく無かった人物に、こうもあっさり発見された事に驚いて、菓子を喉に詰まらせてしまった。離れにいる土方から隠れるのに、母屋の縁側にいる辺り、大して隠れてもいないのだが、その点に関しては少しも気付いていない。総司は胸を叩き、苦しさに涙が滲む目を背後の土方に向けた。
ちらっと、土方は総司の手にある壊紙の中身に目をやり、呆れたように肩をすぼめた。また子供の食い物を…、そんなところか。

「そりゃ悪かったな」

さして悪くもなさそうに、口先だけで謝ると、どかりと隣に腰を下ろし、足を組んだ。爪先で、総司の華奢な脚を着物の上から、触れるか触れないかギリギリの所で翫ぶ。生地が擦れる感触がじわりと伝わり、総司の心臓が早まっていく。

「また物騒な話を。こんな所でして良いんですか?」

自然に潤み始める瞳を隠すように、眉間に皺を寄せて軽く睨んで土方を見た。

(それで隠したつもりかよ…)

上気した目元に指を這わせて更に煽る。思った通り、項まで薄桃に染め視線を泳がせる総司の仕草に、本人に分からぬよう苦笑する。
このところ妙にドキリとする事が増え、土方は落ち着かない。自分の目の届かない場所にいたり、自分以外と親しくしていたりするのも、例えそれが近藤でも嫌な程、自分の傍にだけ置いておきたい。異常だなと、自覚はしているが止められないのも事実だ。
大人になっていく─簡単に言えばそうなのかも知れない。それが素直に喜べない。何とも複雑な感情を悟られないよう、意図的に子供扱いし、傍若無人に振る舞っているが、それにも限界を感じている。
今だって、総司を部屋に連れ込みたい衝動に狩られて、危うく手を伸ばす所だったのだから。
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