短編集

□春の星
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見れば其処には店に立つには歳をとりすぎ、かといって他に職を持てずにこの場所で日銭を稼ぐ陰間達が必死に営業活動をしているのが目に入った。。

「あ?あれか。ありゃぁ…」

言いかけてふと惣次郎を見れば、じーっと微動だにもせず土手を見つめている。つられて土方も土手を見ると惣次郎の視線の先には、ようやく商談がまとまり“仕事”に精を出す彼らの姿があった。

「お〜っと。餓鬼が見るもんじゃねぇよ」
「え〜っ!」

土方はひょいと惣次郎の頭に腕を回し、目隠ししながら少し乱暴気味に引き寄せた。

「なんで〜!?」

好奇心に満ちた子供らしい瞳に見つめられて土方は苦笑いを浮かべた。
13になったはずだったが、小柄な上に色白で姉によく似た面ざしは、未だに少女と間違われる。初めて会ったのは、柳町の道場だった。親友勇の養父から“内弟子の惣次郎”と紹介された時には心底驚いた。よほど苦しい生活をしていたのか、ひょろひょろとして顔色も悪く、吹けば飛んで行きそうなくらいに弱々しい体付きで、何故この子供が実戦重視で荒々しい天然理心流に入門したのかとても不思議に思ったものだった。
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