短編集
□花祭り
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「副長、巡察の報告に上がりました。」
「ああ、ご苦労。入りたまえ。」
唐突に現実が突き付けられるが、むず痒い郷愁にたゆたう心はそこから離れようとしない。頭が巧く働かないまま報告を受けた。話している者が誰かすら認識出来ず、言葉が頭上を通り過ぎて行く。いけない…分かっていても気持ちが追いつかない。揺らいで消える母の姿を思い出せそうで、掴みたくて…
「どうかしましたか、土方さん…?」
「…総司か」
目の前を砂嵐が吹き抜け、視界が色を結び、心配そうに見つめる総司の姿を形作った。
「何でもない。済まん」
「今日は花祭りですね…」
「そうだな」
「あちこちで甘茶の香りがしてましたよ。」
「ぁぁ…」
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