短編集

□花守
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「夢が叶うんだ。」
「夢…ですか」
「百姓は武士になれない、俺はずっと言われてきた。だがよ総司、なるんだ。俺は武士になるんだ!」

土方は込み上げて来る歓喜にうち震え、そして輝いていた。長い間、胸に秘め、期を待ち、漸く訪れた正に千載一遇の機会なのだから。子供のように、無邪気に喜ぶ土方を、総司は心から祝福していた。

「なぁ、総司」
「はい?」

土方は勢い良く総司の肩を組むと、真っ直ぐ前を向いたまま、歩みを止める事無く言い放った。

「俺は京ででっかい花を咲かせてみせらぁ!」
「!」

…道中ずっと、総司は、焦りを感じていた。自分は何の為に京へ行くのか、それすらはっきりしない。土方が行くなら自分も行く、ただそれだけだった。宿や飯屋で熱っぽく語られる皆の話を聞くにつれ、自分の中には何もないのだと気付いてしまった。どうしよう…気ばかりが急いて、肝心な事は何も見えて来ない日々に、不安で押し潰されそうだったのだ。

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