短編集
□花冷えの宴
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「…一つ聞くがな」
土方は不機嫌丸出しで筆を置いた。
「何故俺の部屋でスルメを焙るんだ。」
ギロリと睨んだその先には、スルメと火鉢を囲む、総司と平助の姿があった。
「もうね、この部屋にしか火鉢出てないんですよ。」
悪びれた様子もなく総司が答える。その手は右へ左へ忙しそうだ。
「外出せ、外!!部屋ん中がスルメ臭ぇだろがっ!!!」
怒鳴って庭を指差すが、どちらも知らん顔で
「え〜、寒いんだもん」
「俺も寒いの嫌だし」
と、動かない。土方の額に、みるみるうちに血管が浮き上がって来る。明日会津藩邸に行く近藤に、持って行って貰わねばならない書状を書いている途中だった。それが、急に二人が入って来たかと思うと勝手に火を起こし、スルメを焙り始めたのだ。怒って当たり前だ。それでなくとも最近妙に忙しい上に、頭の痛い事が多く処理しなくてはならない事が山積みなのだ。
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