短編集

□花簪
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女の子は嬉しそうに跳ねると、小さな手で総司をぐいと引っ張ってしゃがませて、自分の役を言った。

「ほな、うちお母ちゃんな」
「じゃあ私はお父さんですね」
「ちゃう。沖田はんは女の子や」
「はい?!」

確かにこの子は今『女の子』と言った。お父さんとお母さんが揃って初めてままごと遊びは成立する───自分が子供の時には確かにそうだったはずだと首を捻った。

「お父さんじゃなくて良いの?」
「お父ちゃんはお仕事やからな。」
「はは、なるほど」

思わず苦笑いをしてしまった。この子の父親は毎日仕事で忙しいのだろう。こんな時にまで“仕事”をしてるとは思わないだろうなぁ…少し切なくなった。
遊びだと言うのに妙な現実感を伴って、ままごと遊びは始まった。

「沖田はん、女の子やから、可愛いらしゅうせな、あかんよ〜」
「はい♪」

きっといつも母親が、この子に言って聞かせているのだろう。総司の髪をいじりながら優しく言う。穏やかな日常が垣間見えて、くすりと笑みがこぼれた。

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