短編集

□結ぶ
3ページ/10ページ

手招きされ、何事かと、2,3歩近づいて言われるままに背を向けた。

「どれ、直してやるよ」

え?と思うより早く紐が解かれ、子供らしい素直で艶やかな黒髪が、サラリと流れた。

「手櫛だからそうきっちりとはいかねぇが、幾分マシだろう」

歳三の意外に器用な指が、行ったり来たりしながら髪をまとめていく。何故だか不思議と温かくて、ふいに目頭が熱くなった。

「これでよし!」

ぽんっと、頭に歳三の手が置かれた。大きな手だった。

「ありがとうございます」

くるりと向き直り、深々とお辞儀をした。昨日が辛かった分余計に、思いがけず寄せられた優しさがとても嬉しくて…泣いてしまいそうな顔を隠したかった。

「その紐随分使ってるな。切れそうだぞ?」
「…姉に貰った物なので」

本当は、自由に使える金が無いから買えないのだ。だが、勇や周助、フデの手前、そう言って買わずに誤魔化していた。勇と歳三は、性格も好みも違うのに何故か仲が良い。大して稽古もしないのに試衛館に来るのはそういった理由もあるのだ。だから歳三の口から勇に話が通ってしまう事が怖かった。それを知ったら勇は新しいのを買えと言ってくれるだろう。だが、その後フデにずっと厭味を言われ続けるだろう事も明らかだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ