短編集

□結ぶ
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“貴方に言われたくない”
そうはっきり書いてあった。昨日は主の周助と勇が出掛けていたからなのか、殊更女将さんの機嫌が悪く、いつもなら他の者がしている仕事まで押し付けられた為に寝る時刻がずれ込んでしまったのだ。身心共にクタクタになり、崩れ込むように床に入ったのは夜半近かった。泥のように眠りについた。それでも朝はやって来るし、仕事は待ってはくれない。雀のさえずりに慌てて飛び起き、身支度したが、髪までは手がまわらなかったのだ。惣次郎としては“朝早く人に会う事も無いだろうから、掃き掃除が終わってから直せばいい”と思っていたのだ。髪がどうであろうと朝から女将さんに怒鳴られるよりは妙案かと思われた。だから、ここで歳三に会って見咎められた事に惣次郎自身も実は驚いているのだ。

「ちょいと後ろ向いてみぃ?」
「はい…?」
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