短編集

□約束 -タカラモノ-
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「何時もの茶店まで我慢しろ。」

だがこれもまたあっさりと却下して、歩き続けた。夕刻までには日野へ着き、そこで温かい夕飯にありつきたい。日野方面の出稽古は久しぶりだから、姉の所に顔出して食わして貰うつもりでいるのだ。惣次郎に付き合っていたら冷めた飯しか食べられない。歳三の頭には、姉の作る美味い飯しか頭に無かった。
黙々と歩き、一人先に茶店に着くと、店先に座り、主に茶を貰い一心地入れた。朝の早いうちから歩き詰めで、初めて取った休息らしい休息だ。両手をぐぃと上げ、体を伸ばし大きく息を吸うと、ふと今来た道を見た。

「…?」

おかしい。そこにあるはずの惣次郎の姿が何処にもない。常日頃“役者のような”と言われる、きりりとした顔がみるみるうちに不機嫌になっていく。なまじ綺麗な顔だけに、そうすると恐ろしく物騒な雰囲気を醸し出し、誰一人として近付く者はない。しかも暗雲立ち込める不機嫌さを隠そうともしていない。
伸ばした腕をドサリと下ろすと、懐から金を出し

「おやじ、代金は此処に置くぞ。」
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