短編集

□約束 -タカラモノ-
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すたすたと歩いて行く歳三の後を追い、慌てて立ち上がると脇に置いておいた木刀をひっ掴み、むくれた顔のまま歩きだした。だが、無言の圧力に屈するのが一寸悔しくて、走って距離を埋めるという努力はしない。落ちていた小枝を拾って振り回し、鼻唄混じりで右へ左へ蛇行しながら歩く。

「土方さん足早いって…」

聞こえないように小声で時折愚痴を混ぜるのも忘れない。
こんなに良い天気なのだから少し位寄り道したって神様も怒らない、呑気にそう考えるのだが、歳三に言おうものなら「お前のおつむは何でそう弛いんだ」と叱られるのが分かっているから口にはしない。口にはしないが態度は語る。
歳三も、そんな惣次郎には慣れっこだから、一々相手にせずスタコラと歩き続ける。通い慣れた日野への道だから迷子になるはずもないし、文句垂れの弟分の話を聞く積もりも更々無い。どうせ付かず離れずの距離を取って歩いているだろうとタカをくくり振り向きもしなかった。

「お腹すいたなぁーっ!」

暫くすると遠く後ろの方から、惣次郎の声が言外に“休みたい”と訴えて来た。
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