短編集
□鯉のぼり
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「勝ちゃん、惣次郎何かあったのか?」
道場で稽古を付けていた勝太を、窓から手招きして呼ぶと、開口一番に訊ねた。
久しぶりに試衛館に来てみれば、以前より大分打ち解けて来てようやく笑顔を見せる事が増えたのに、何故か今日は心此処に在らずといった感じであった惣次郎が気になって気になって仕方ないのだ。
「久しぶりだな〜!」
勝太は笑いながら出てくると、ちらっと母屋を伺って、気持ち小声になると逆に歳三に訊いた。
「惣次郎、しょぼくれてたか?」
「何だ、またフデさんか」
門前で箒を手にし、一つ掃いては手を止め、溜め息を吐き項垂れていた惣次郎を思い出した。歳三の姿を見付けて慌てて明るくする様子に、益々違和感が募った。これは勝太に聞いた方が良さそうだ、そう思って呼び出したのだ。
「実は…もうすぐ端午の節句だから、惣次郎にも鯉のぼりを飾ってやろうとしたんだが義母に止められてしまって…」
「はぁ?あんたにゃ悪いが、あのババア、ケチ臭くていけねぇや」
勝太の義母とはいえ、歳三はフデがあまり得意でない。盛大に嫌な顔をした。どうせ「内弟子に飾ってやるようなもんはうちには無いよ」と、けんもほろろだったんに違いない。
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