短編集

□北花影
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“こんなに冷たい風の中でも、花は咲いて散るのだな…”

北の大地蝦夷にも、春はやって来る、当たり前の事に心は安らぐ。
勝てるなどとは思っていない。そんな幻想を抱くには現実を知りすぎている。全面降伏と言う榎本等の決定は、何を言っても変わる事はなかった。本当は土方自身、心の奥底でそれで良いと思っていた。後に残る者達の為にはそれが良い、そう分かっていた。だが自分は…
己の信ずるまま、武士で在り続けるために、此処まで来た。幼い日、心に誓った夢を追い、愛する者すら置き去りにした。後悔などしていない。気付けばただ独り、戦の中に身を置き、武士としてこうして生きている。願いは叶ったのだ。

一人騎上で行く先を見れば轟音と共に激しく砲火が上がり空を焼いているのが見える。あの空の下に、助けが来ると信じて待つ、かけがえのない仲間が待っているのだ。行かなくてはならない。だが、このまま行った所で今側にいる若い命を無駄死にさせるだけ…。後ろを振り返り、ここまで付き従って来た隊士達の姿を見回した。皆、土方を信じて付いて来た者ばかりだ。その顔は信じる者に最後まで従う誇りに満ちていた。
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