短編集

□雨宿り
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急に降りだした雨に惣次郎は慌てて近くの軒下へ逃げ込んだ。一緒に遊んでいた友達は、雨が降りだした途端に蜘蛛の子を散らすように帰ってしまった。自分も早く帰ろうと、走り始めたが、裾に大小様々な泥跳ね模様が幾つも出来ている事に気付き、足を止めた。
雨はいっこうに止む気配は無い。それどころか勢いは更に強まり、軒下にいても濡れてくる始末だ。軒を伝って大粒になった滴が、ボタボタと派手な音を立てて落ちてくる。水溜まりに落ちて跳ね上がり、惣次郎の着物に次々と新しい模様を付けていった。

「いいことかんがえた!」

ぽん!と手を叩くと嬉しそうに軒下から飛び出し、ザァザァ降りの中、裾を持ち上げて擦り始めた。いつも義兄がやっているように、汚れている所を摘んで、見よう見真似で擦った。こうして洗っておいたら喜んでくれるかもしれない。
惣次郎は優しい義兄が大好きだ。「男の子は元気なのが一番だ」と、泥だらけになって帰っても怪我して泣いていても、ニコニコして頭を撫でてくれる。けっして満足出来る暮らしではない。それは幼い惣次郎にも朧気ながら分かっていた。
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