短編集

□春の星
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うっすらと茜色した綺麗な空が広がっていた。其処此処から若葉や花々の香りが漂っていて、惣次郎は何だかウキウキしていた。川面が夕日を映して輝いているのもとても綺麗だったし、すれ違う人々もどこかのどかで柔らかだし、遠くに聞こえる家路を急ぐ子供達の“また明日”と言う声も耳に心地よく、初めて歩く川沿いのこの道が楽しくて仕方なかった。
あちこち見ながら歩いている途中、河原に屯する数人の男衆に気付いて惣次郎は前を行く歳三に尋ねた。

「土方さん…あの人達は何をしてるの?」

中野まで使いに出た帰り道、先程までの茜の空は姿を変え辺りは既に薄暗くなっていた。
いつもなら一人でさっさと用事と茶屋遊びを済ませて帰るのだが、そんな事を知らない惣次郎に一緒に行きたいとねだられ渋々連れては来たものの、やっぱり虫が騒いでせっかく来たのにただ帰るなんて勿体無いと野暮用に付き合わせた為に普段より遅くなってしまっている。

「やべぇ…勝ちゃんにどやされる…」

慌てた歳三は行商で良く使う抜け道を惣次郎をひっ立てながら急いでいる所だった。
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