短編集

□下弦の月
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しんと静まりかえり、時折風に揺れる木の葉の音が、やけに響く。消えて無くなりそうな細い下弦の月が星に紛れて浮いていた。
眠りが浅いわけではないがふと、庭に人の気配を感じて目を覚ました。音を立てぬようそろりと障子を明ければ。確かに誰かいるようだが朔に近い月明かりでは顔まで判別しかねた。それでも、歳三はそれが誰であるか、迷う事は無かった。

「どうした総司、こんな夜更けに?」
「…起こしてしまいましたか?」

柔らかな声音が申し訳無さそうにそっと答えた。

「何だか寝付けなくて…」

躊躇いがちに続けられた言葉は、僅かに震えている。歳三は縁側に腰掛け、自分の隣をぽんぽんと叩いた。

「座れよ」
「…はい」

やや間を空けて、ひたひたと足音が近づいてくる。すとんと、華奢な姿が静かに隣に収まった。

「どうした?」
「…斬った感触がね、残ってるんです。」

うなだれて、膝に放り出されている両手を見つめて、総司が言った。
昨日今日、初めて斬った訳ではない。京に来てから何人斬ったか。その中には見知った顔もあった。何でもない…それは嘘。歳三とて苦い思いを多々してきた。だが今は…。

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