短編集

□黒壇の闇 コクタンノヤミ
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「ぁっ!!…はぁ…ぁ…」

今夜もまた、あの夢だった。目が覚めると、急速に薄れていき、はっきりと覚醒する頃には、もう分からなくなっている。

だだ、血の匂いがした。

総司はそれが嫌で、汗を拭うより先に、他の者を起こさぬようそっと部屋を出る。すでに日課のようになってしまっている。
縁側に腰を降ろし、庭へ目を向ければ、朔に向かい僅かに欠け始めた月明かりの中を白い蛾が通り過ぎて行った。

己の剣が初めて人血を吸った夜、訳の分からない興奮に震えた。長く剣術を習い、自分にも漸くこの日が来たのかと、誇らしかった。
土方や近藤に、頼りにされている、それも何だか嬉しかった。今日からは自分が二人の刀となって守る事が出来るのだと…若者らしく真っ直ぐに、純粋に、ただひたすらに信じる人の為に。
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