短編集

□結ぶ
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まだ朝靄の残る中、歳三はカラカラと鳴る薬箱を背負い、道を急いでいる。
日野に帰る前に試衛館に寄って一汗流すつもりだ。何となく通い始めてはみたものの、家業の手伝いや茶屋遊びが忙しく、稽古に来ない日が多いと、お世辞にも良い門弟とは言えない上に、薬を売るついでとあちこちで流派を問わず上がり込んで稽古を付けて貰うもんだから基本の型が定まらず、ちっとも免状が貰えないでいる。もっとも当の本人が余り気にしていないので、大した問題では無い。

“ザァッ、ザァッ、ザァッ”

坂を上がると、道場の門前に竹菷とそれと大して変わらぬ背丈の人影があった。早朝から掃き掃除に余念の無い惣次郎だった。

「よぉ、惣次郎!朝から精が出るなぁ〜、ってその頭どうした?」
「あ…土方さん。お早うございます。」

几帳面に下げられた頭とは正反対にグシャグシャな髪…。不審に思いながら、ひょいと一房手に取って尋ねた。足軽小頭とはいえ武家の子らしく普段はきちんとしているだけに、尚のこと気に掛る。

「朝っぱらから喧嘩でもしたのか?」
「いえ…少しばかり寝坊してしまいましたので…」
「お前が寝坊!へぇぇ!珍しい事もあるもんだ!」
「…」

大袈裟に驚いている歳三を無言で見つめるその瞳には
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