長編集

□明告鳥
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二人が逃げたのを視界の隅で見届けると、再び土方を見上げる。明らかに楽しんでいる雰囲気に腹が立つが、こうなった以上観念するしかなく、それでも僅かに抵抗の意を込め眉間に皺を寄せた。

「止めてやっただろ?」

総司の小さな抵抗などまるで気にする風もないのがまた癪の種だ。ニヤニヤしながら総司の腕を掴み、グイと引き寄せ、周囲の視線を分かった上で敢えて耳元で囁く辺り、人が悪いとしか言いようがない。

「代わりと言っちゃナンだが、俺が相手してやるよ」

言われた言葉にサッと顔を赤らめ、拒否の意を込め睨む。

「真っ昼間から何小っ恥ずかしい事言ってるんです?他の人に聞かれたらどうするつもりなんですか?!」
「ふん、聞こえる程大きな声じゃねぇだろうが。それよりお前の赤い顔の方がまずいんじゃねぇか?」

総司の慌てふためく様子に、ますます面白そうに茶化してくる。

「っつうか、ちょいと一手交えるかと俺は言ったんだが?」
「っ!!」

瞬間的に顔が怒りで真っ赤になった。勘違いしたのは自分だが、あまりの恥ずかしさと、土方の物言いに腸が煮えくり返る。毎度毎度、挑発に乗るもんかと思っていても、つい頭に血が上り土方の思うツボに嵌ってしまう。分かっているのだ、分
かっているのだが、どうにも我慢ならない。若干の八ツ辺りも含め、総司は怒りの矛先を向けた。

「…受けて立ちます」
「場所変えるぞ。付いて来い。」

雰囲気だけで「してやったり」と盛大に笑う土方が踵を返して歩き出したその後ろを、闘志丸出しの総司が付いて行く。不穏な空気が渦を巻く中、明暗くっきり別れた二人連れを、周囲の人々は何とも言えない眼差しで遠巻きに遠慮しながら見送った。
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