短編

□弾丸ラブ
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 それは偶然だったんだと思います。
 偶然がいっぱい重なって、必然になったんだと思います。
 まず最初の偶然はツナさんが京子ちゃんに告白するところを見てしまいました。
 その時私は「あぁやっとか」と思いました。
 だって、ツナさんが京子ちゃんを好きなのはずっと前から知っていて。
 だから心構えなんてとっくの昔にできていて。
 それにしたってハルは冷たい女ですね、なんて感想まで述べてしまうゆとり。
 だって私は、泣くことすらできなかったんです。
 悲しすぎてとかそんなのじゃなくて。
 ほんとに、泣きたいとすら思えないんです。
 当たり前のことがきちんと当たり前に実行された、そんな感じで。
 京子ちゃんに「おめでとうございます」と笑顔で言ったときには自分自身にゾッとしました。
 よくよく考えれば私は京子ちゃんをライバル視したことがないのです。
 つまりツナさんと京子ちゃんが結ばれるべきだと、無意識に考えていたのです。
 なんということでしょうか。
 私は無意識にこの恋愛を諦めていたのです。
 次の偶然は獄寺さんが切なげな瞳で私を見ていることに気づいたことでした。
 思い返せば獄寺さんとはケンカばかりでしたが、気持ちをぶつけ合ってきた仲です。
 つまり本音でぶつかり合うことのできる相手です。
 そんな相手が居ることに気付けなかった私は相当間抜けで。
 そしてそんな獄寺さんが、まるで恋する瞳で見つめてきていることに気づいたのが、今だなんて。
 そんなの惚れろって言ってるようなものです。
 だって私は今ツナさんに恋をしていないのですから。
 三つ目の偶然は獄寺さんが女子に告白されているところを見たことです。
 私はその時胸が苦しくて、息ができなくなるかと思いました。
 だってもしかしたら獄寺さんはその子と付き合うかもしれないじゃないですか。
 それって考えるだけで切なくて悔しくて悲しくて辛くて。
 結局獄寺さんはその子をふってしまいました。
 でもこれってつまり、私は獄寺さんが好きなんですよね?
 ようやく自覚したときに私が思ったのは「どうしよう」でした。
 だってもしかしたら獄寺さんが切なげに私を見つめていたのは、私の思い違いかもしれなくて。
 そうじゃなくても「十代目にふられた哀れな女」なんて思いながら見ていたとしたら。
 告白なんてできません。
 そこまで考えて気づいたのですが、これって私らしくないじゃないですか。
 だってリボーンちゃんやツナさんを好きになったときはあんなにも素直に言えたのに。
 これって退化しているってことなんでしょうか。
 そんなのってやっぱり「ハルらしくない」わけじゃないですか。
 じゃあどうすれば「ハルらしい」のかって言うと、つまり前向きに事態を検討しつつ、行動に移すことだと思うんです。
 思い立ったが吉日とでも言えばいいんでしょうかね。
 ようは獄寺さん、ハルはあなたが好きです。

「は……?」
「ですから、もう一度言います。
 ハルはあなたが好きです」
 真剣な目をしてそんなことを言いやがるもんだから、オレは一体どうすればいいのか分からなくなる。
 散々の弾丸トークを聞かされて、冷静に告白されて。
 つーか待てよ、切なげな目ってなんだよ。
 いや、そりゃあ片想いの女見てたらそういう表現になるんだろうけどよ。
 それでもそんな目をしていた自分が恥ずかしい。
「獄寺さん、こういう場合は早々にお返事を聞かせてほしいのですけど」
 事務的口調で言うハルにオイオイと言いたくなる。
 高校生になってなんか変わったな、と思うことは今までも多々あった。
 それにしたってこんなに様変わりしなくてもいいじゃねぇか。
 まるで子どもっぽい、ハルらしいところが見当たらない。
 感情そのままに行動するのがお前だろ?
「聞いてるんですか、獄寺さん。
 そろそろ泣きそうなので、早くしてください」
 切羽詰った目をするハルは確かに泣きそうな顔で。
「いや、なんでお前が泣くんだよ」
「それだから獄寺さんはダメなんです。
 ふられたら、泣きたくなるんです」
 分からないでしょうけど。
 呟くハルは俯いてじっと自分の足元を見つめている。
 待てよ、なんでオレがお前をふるんだよ。
 オレはずっとお前が好きで。
 でもお前は十代目が好きだからずっと黙ってて。
 それなのに、お前、そんな。
「んな可愛いこと言われたら、抱きしめたくなるだろーが、アホ」
「はひっ」
 言うが早いか、するが早いか。
 オレは言い終わらない内にハルを抱きしめていた。
 なんだよお前もう、ちくしょう。
 絶対こいつは手に入らないと思ってたのに。
 それなのに。
「オレだってお前にふられたら泣くっつの」
「う、あ、あの」
「お前さっさと気づけよ」
「す、すみませ」
「つーかお前、くそっ。
 オレもお前が好きだ」
 顔なんて見れないから抱きしめたまま言ってみる。
 すると腰のあたりに腕が回されて、抱きしめ返されて。
 あぁくそ、健全な男子高校生になんてことしやがんだアホ女。
「獄寺さん」
「あ?」
「大好きですっ」


笑った君は誰よりも君らしい

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