短編
□気づいてないみたいだけど
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「三浦って可愛いよなー」
「……は?」
野球バカ、お前目腐ってんじゃねーの?
あれのどこが可愛いんだよ。
生意気に釣り上がった目、どちらかと言えばアヒル口に近い唇。
動くたびに揺れるポニーテールは目障りだし、少し高い声は腹立たしい。
あいつが可愛いなんてあるわけがない。
「な、ツナ」
「え、オレ?」
「十代目、無視でいいですよ無視で」
言いながらオレはカレーパンを頬張った。
安っぽい味が腹立たしい。
ちくしょう、なんだって今日に限ってこれしか残ってなかったんだよ。
油が回りきってる上に、でけぇじゃがいもが気に食わねぇ。
「んー、でも確かにハルって可愛いよな。
黙ってたらだけど」
「はは!ツナ手厳しいのな」
苦笑する十代目はお母上のお弁当を食べていらっしゃる。
山本は一体どこで仕入れてきたか、今日は即売り切れとなって買えなかったはずの焼きそばパン。
「そういや今日は三浦も並中に居るんだよな」
「あ゛?なんであいつが居るんだよ」
「なんか今日体操部の交流試合か何かみたいだよ?」
「さすが十代目、なんでも知っていらっしゃるんですね!」
十代目を褒める反面、ちょっと悔しく思ってしまった。
なぜかオレはオレだけ知らなかったという事実に腹が立った。
ちくしょう。
だからあの女は嫌いだ。
オレから冷静を奪い取る。
「見っつけましたよツナさーんっ」
「げ、ハル、叫ぶなよ!」
「三浦は今日も元気なのな」
「アホ女、てめぇ十代目に恥じかかせてんじゃねぇ!」
まったく野球馬鹿の野朗、のん気に笑いやがって。
こいつの場合元気とかそういう次元じゃねぇだろもう。
「はひ、獄寺さんタバコ吸わないで下さい!」
「んなもんオレの勝手だろうが」
「ちがいますぅ!ものすごく迷惑なんです!」
「だったらなんだよ」
「ちょ、やめなよ二人とも!」
いつもならここでハルが「ツナさんが言うなら」と引き下がる。
だが今日は違った。
「いいえ、今日こそは言わせて貰いますよ!
ツナさん、山本さん、お二方にもです」
「は!?」
「ん、オレもか?」
動揺するオレ達にハルは大きく頷いた。
意味が分からねぇ。
状況についていけねぇ。
もう無視でよくないかこれ。
「まず喫煙は獄寺さんの体によくないです。
しかもタバコは吸ってる人間よりも、周りの人間の方が被害大なんです!
ツナさんや山本さんまで被害に!
ていうかそもそも未成年者は吸っちゃいけないんです」
「ま、正論だな」
「なら山本さんどうして獄寺さんを止めないんですか!
ハルは悲しいです、だって獄寺さん死んじゃう……」
おいまて。
「なんでオレが死ぬことになってんだ?」
「タバコ吸ってますから」
「んなもんで死んでたまるか!」
「死にますよ!ユーアーダイ、です!」
「占い師かお前は!」
一昔前に居たよねそういうの。
ぽつりと十代目が呟くのが聞こえる。
あぁくそ腹立たしい。
なんでこいつ相手だと無視ができないんだオレは。
一々まともに相手するから付け上がるんだ。
なのに。
「とにかく、獄寺さんには長生きしてほしいので、禁煙よろしくお願いします」
にっこりと笑ってオレの口からこの女はタバコを取り上げた。
しかもどこで手に入れたのかご丁寧に携帯用灰皿まで用意して、そこに吸殻を入れる。
くそ、計画的すぎねぇか?
「その旨を伝えるためにもハルはわざわざ獄寺さんを探しにきてあげたんですよ?
お昼の時間を削ってまで」
「頼んでねぇだろ!」
「頼めないだけじゃないんですか?」
ふざけんな。
思わず溜息ついてオレは視線を手元に落とす。
食いかけのカレーパン、三分の二。
……餌付けでもすれば大人しくなるか?
「おら」
「へ?」
オレはそれを袋に入れなおして放ってやる。
「それ食ってさっさと戻れアホ」
「は、はひ……い、言われなくても戻りますもん……
つ、ツナさん今日また放課後に!アデューです!」
そう言って心無しか顔の赤いハルは走り去っていく。
嵐か、あいつは。
オレ達はハルが走り去った方をぼうっと見つめた。
「……やっぱ三浦って可愛いのな」
「はぁ?まだ言ってんのかよ」
「でもオレもそう思う、ハルって健気だよね」
「そうそう、普通そこまでしねぇってなー」
「いくら好きでもねー」
待て、誰か説明してくれ。
十代目と山本は一体何の話をしてるんだ?
「つまり十代目を追いかけまわしている話しのことですか?」
オレの言葉になぜか二人は溜息をついたのだった。
獄寺君が好かれてるんだよ
「た、食べ、食べさしって!
間接き、キスじゃ、ないです、か!」
「ハル何騒いでんの?」
「だだだだってす、好きな人がハルにパン、パンくれた!」
「あぁ、あの噂のいじわるで優しくなくて不良な人?」
「違います!
不器用で強くってかっこいい人ですっ」
「はいはい」