短編

□変わったと君は言うけど
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「ツッ君変わったね」
 ぷっくりと頬を膨らませて京子ちゃんが言う。
 それにオレは首を少し傾げてみせる。
 変わった、と言われれば変わった気もするけれど、変わっていないと言えば変わっていない。
 いや、多分オレは昔からこんな感じだ。
「そうかな?」
 オレの返事にやっぱり京子ちゃんは不機嫌そうに首を縦に振った。
 うーん、どうなんだろう?
 確かに今じゃボンゴレのトップで、周りからはドンだのボスだの呼ばれている。
 それに相応しい態度を、対応をと思うから仕事中はできるだけ強気でいる。
 でも京子ちゃんや友達達の前では以前のままだ。
 気のせいだよ。
 そう言っても京子ちゃんは知らんふりでケーキをはくりと食べる。
 その瞬間よほどおいしかったのか目がとろん、として上機嫌な顔になる。
 あ。
「可愛い」
 ほぼ反射的に呟いた言葉に京子ちゃんは固まる。
 そしてやっぱり不機嫌顔。
 えー。
「やっぱりツッ君変わったね」
「またそれ?」
「だってツッ君、昔はそんなことさらっと言えるひとじゃなかったもん。
 なんだか……可愛くない」
 昔はね、可愛かったんだよツッ君。
 京子ちゃんのその言葉が母さんの言葉とダブル。
 やめてよ京子ちゃん。
 恋人と母親がダブルってこの上なく恥ずかしいし嫌なんだけど。
 それにしても、そうか……
 京子ちゃんはどうやら昔の何をするにも恥ずかしがってるオレがよかったらしい。
「でもそれじゃキスもままならないし」
「〜っ、もう!そんなことばっかり!」
 顔を真っ赤にする京子ちゃんが面白くて思わずくすりと笑ってしまう。
 オレの恋人はなんて可愛いんだろう。
 今じゃキス以上のこともする間柄なのにね。
 でも京子ちゃんはキスの単語だけで顔を真っ赤にする。
 ある意味変わったのは京子ちゃんの方だ。
 昔はキスなんて言ってもきょとんとして「お魚が食べたいのツナ君?」なんて言ってたのに。
 まぁでも。
「オレの気持ちだけは、昔からずっと変わってないんだけどね。
 ……あぁ、京子ちゃんの可愛さも」
 にこりと微笑んで言ってみせれば、京子ちゃんは顔を赤くしてツッ君のバカとつぶやく。
「私も、昔からツッ君への気持ちだけは変わってないよ」
 やっぱりオレの恋人は可愛い。
 誰にともなく心の中で惚気てみた。


十年前から変わらない気持ち

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