短編

□どっちが
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 ばかじゃねーの。


「犬……」
「ばかだびょん」

 お前、ほんとばかだびょん。
 何度目か分からない呟きに、こいつは泣きそうな顔をする。
 ばかだびょん。
 ほんとに。

「犬、私……」

 私ね。
 そう言って、クロームは言葉に詰まる。
 言うなよ。
 絶対。
 そう思っても、こいつは言ってしまうんだろうな、とか思う。

「私、犬のこと好き……」
「オレはお前の事嫌いびょん」
「知ってる……」

 しらねーよ。
 お前は何も知らない。
 オレ、ほんとは。

「でもね、犬、私は犬のこと好き」
「……っ。
 ばかだびょん!」
「あの……」
「お前は、友達としてすきなんらろ!?」
「え……」

 ソレジャダメナノ?
 ドウシタライイ、ケン。
 クロームの言葉が、やけに遠くに感じた。
 だめにきまってんだろ。
 だって。

「オレだって……」
「え?」
「……なんでもねーびょん」

 柿ピが呼んでるびょん。
 そう言うと、クロームは「ほんとだ」と言って小走りで去っていく。
 スカートが、ひらりと揺れて。
 クロームがどこか遠くに行くようで手を伸ばしても、結局届かずに虚空を掴んで。

「ばかはオレだびょん」

 オレだって、お前のこと好きなのに。
 でもお前は骸様じゃないオレは「友達として好き」で。
 そんなの、いらないのに。
 でも、それでも好かれて嬉しいなんて。


 ばかじゃねーの。

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