BOOK
□パラレルワールドって想像するもので、行くものじゃない。 1 (完)
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一発の銃声の直後、カエルは仰向けに倒れ、チーターが十四郎の上に覆いかぶさるように倒れた。十四郎はぬるっとした生暖かい感触を予期して固く目をつむったが、それがくることはなかった。代わりにスースーと息をする音。
『え?』
まもなくその息も遠ざかり、十四郎の上から重みも消えた。
『超即効性の麻酔銃だと。 怪我ァねぇか? 十四郎』
すぐそばで誰かが片膝を着く。見覚えのありすぎる靴。十四郎の高校の指定上履きだ。今年の1年生──十四郎の学年はつま先部分の青いもの。それに沿って足、腹、胸…と視線を上げると、そのさきにこれまた見覚えのありすぎる顔があった。
『晋助……?』
『どうした? 鳩が豆鉄砲食らったような顔して。ココに俺がいちゃァ悪いのか』
『いや、そうじゃなくって…… お前こそ、怪我ないのかよ』
クラスメートの高杉晋助。左目を眼帯で覆った晋助の学生服は所々が切り裂かれていた。
『ない』
赤いYシャツの上に前ボタンを留めずにただ羽織っただけの詰め襟の学生服は、攻撃をかわす度に大きくはためき、そこをナイフが掠めたのであった。
十四郎は少し安心して息を吐いた。
『よかった ……?』
突然、後ろからグイッと引き起こされ、座らされた。
「いつまで床と仲良くしてるつもりだ?」
『乱暴に扱うな、天パー』
「命の恩人にそーいうこと言うわけ?」
『別に命の危機にはなかった』
「やっぱり、かわいくねぇー。 ……誰かさんと一緒」
背後の人物が最後にぼそりと呟いた直後、十四郎の両手首で縛られていた荒縄が解かれた。どれほどの時間縛られた状態で転がされていたのかはわからないが、肩や背中の筋肉がすっかり凝り固まっていて痛い。
背後の人物に礼を言うべく、その痛みを騙し騙し体の向きを変えたが、十四郎の口から出たのは礼ではなく、
『あ…… ぎ、銀八!?』
「だから、銀八って誰?」
この場にいる、もうひとりの眼帯の少年にも同じことを言われていた彼は首を傾げた。
銀髪は坂田銀時と名乗った。十四郎と晋助の担任とは一文字違いだった。
「で、その担任と──」
ばんっ
「──俺がクリソツって?」
ばばんっ
『クリソツっていうか……──』
晋助の背中で十四郎が喋る。情けないかな。頭痛が酷くて立ち上がることさえままならなかった。こうしておぶられていても移動の際の衝撃は頭に響くが、仕方がない。敵のアジトに長居は無用という銀時の判断だ。ここに、時期に彼の味方が仲間を連れて踏み込んでくれば、もっと戦闘が過激化するという。それを避けるため今、安全な脱出を誘導してくれる味方との合流ポイントに向かってるのだが、思いのほか残党が多い。
3人の会話は銀時の発砲の合間合間に進められていた。
『──クローン? 国語教師のくせに白衣着て、保健体育やるようなやつだからなアイツは』
『実験と称して自分の1人や2人つくってるんじゃねぇか?』
銀八に対する評価に、話を聞いている銀時は複雑な気持ちになった。そっちの世界の自分はいったい何をやっているのだ。
「あ゛……弾詰まり……」
『他に武器は?』
十四郎が顔を引き攣らせる。
「銃弾のストックだけ」
『意味ねぇじゃないか!! 乗り込んでくるなら他にも用意しとけよ!』
耳元で十四郎がギャンギャンうるさいが、まぁ、十四郎だからよしとしよう。晋助は十四郎にはとことん甘かった。
十四郎と銀時が言い争いをする中、高杉は壁に設置されている避難経路を見つめていた。赤い線で示されている避難経路は見事に今現在多数の敵が待ち構えている真っ只中を通っていた。ここを丸腰で進むのは命を無駄にするだけだ。
《 ん? これは……》
先程、十四郎が捕まっていた部屋で、銀時が味方と連絡を取りながら地図を広げ、確認していた合流ポイント。そこは、この避難経路を進み、100メートル先で壁に突き当たったら、案内図の赤い線とは逆──つまり右へ、さらに1つめの角を右へ曲がった奥だ。
「知るか! 俺だって、まさかひとりで無戦力なガキ二人も連れて脱出するはめになるとは思わなかったんだよっ。 あ゛──っ 奉行所の役人は全滅だっていうし、どいつもこいつも役に立たねぇ──っ」
銀時は両手で、がしがしと頭を掻きむしった。だめだ。冷静さを失っている。その間にも敵の気配が近くなってきていた。
『なっ、誰が役に立たな……』
『おい』