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□高杉晋助の逃走 前編 (完)
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「放せ変態」
 
 腰に纏わり付く万斉の頭頂部にひじ鉄を下ろした。
 
「男なんざいねェよ。今も昔も」
「うぅぅ……白夜叉のところへ行くのは誠に不本意ながら、致し方ない事として、やむを得なく、百歩譲って許すとして」
「そんなに銀時が気にくわねぇか」
「気に食わない。口にも合わぬわ」
「銀時の味の話はしてねぇ」
「そうッスよ。ここは万×銀じゃなくて、晋助様をめぐっての万vs銀の方がいろいろ楽しいッス!」
「……楽しい?」
「また子殿」
 
 突如会話に乱入してきた来島は、目を爛々と輝かせている。
 
「万高妄想語り禁止!」
「拙者だけ!? 銀高は?」
「許可する」
「やっぱり昔の男への未練が断ち切れぬでござるかァァァ……こうなったら何が何でも白夜叉より拙者の方が勝っていることをその体に教え込…」
「また子、今日から絶っっっ対、万斉のと俺のを一緒に洗うんじゃねぇぞ」
「了解ッス! 万斉の茶には雑巾の搾り汁とカスを入れてやるっス」
「おお、やれ」
「あとあと、歯ブラシは排水溝掃除に使って、座布団には"Boo-Booクッション"仕込んで」
「イジメ!? それイジメでござるよな!?」
 
 その内容は熟年夫婦の妻から夫へひそかに行われる憂さ晴らしである。Boo-Booクッションは違う気もするが。
 
「ところで、また子。お前もここへこんなこと語りにきたわけでもあるめェ。その手に持ってるもんは何だ?」
「あ、そうでした。これ、う●ぎパイです」 ┛
 
 高杉がピクリと反応する。
 う●ぎパイ、それは"夜のお菓子"。
 
「なんか、晋助様に会いに来たって、女性が」
「また子、その女絶対通すな。俺はメイド喫茶に萌え萌えオムライスを食いに出かけた。人違いじゃありませんかって、追い返せ」
 
 そう言って障子窓を開け、枠に足をかけたとき、
 
「ごめんくださいな。お嬢ちゃん、悪いわね。戻って来ないから勝手にここまで来てしまったわ」
「し、晋助様は、メイド喫茶に萌え萌えオムライスを食いに出かけたことにして、人違いじゃありませんかって、追い返せとのことッス! あ……」
「そこまで伝言する必要はないでござる」
「あたしのバカぁぁぁ〜っ」
「今頃気づいたでござるか」
「黙れ変態! 死ねっ」
 
 高杉は部下の大マヌケな失態に舌打ちをしながらも部屋の外へ飛び出した。
 
「晋助!」
 
 高杉を追い掛けて窓へ駆け寄る母親の肩を万斉が掴む。
 
「母上殿。拙者に任せるでござる」
「万斉先輩、あんたどっちの味方なんスか」
 
 
 
 船を降りた高杉は、たまたま近くに停車していたタクシーを見つけ、早々に後部座席へ乗り込んだ。
 大江戸の地理にはあまり詳しくないが、最近のタクシーにはカーナビがついているので、住所を告げれば良い。
 
 

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