BOOK
□高杉晋助の逃走 後編 (完)
1ページ/8ページ
高杉晋助の逃走 後編
「おいおい。どうして、俺の居場所がわれて……あ」
「どうした? 何か居場所がわれるようなヘマをやらかした覚えがあるのか?」
「……メモがない」
慌てて服のポケットというポケットに手を突っ込み、その時来ていた着物をバタバタさせる高杉の姿は実に滑稽だが、状況は笑えない。
「うちの住所をメモってたぁ?」
「しかも、それを誤って真選組に見せ、揚句なくしたと……間違いなくここに来るな。奴ら」
「おいおい。それ銀さん超ピンチじゃね? 指名手配犯2人と一緒にいたなんて知れたら、社会的信用丸潰れじゃん」
「すでに跡形もないだろう、そんなもの。家賃滞納常習犯め。全く、お登勢殿も気の毒に」
ピンポーン
「んだ? 新八かぁ?」
自分で入って来いよと、ぼやきながら銀時は玄関先へ向かい、そして、血相を変えて戻ってきた。
「真選組! 黒い制服が戸の向こうに立ってるよ! 5人くらい」
『おい! 誰かいないのか? 真選組だ。開けろ!』
「開けられるわけないだろ。こいつらとの関係聞かれても困るんだよ」
プルルル プルルル
プルルル プルルル
電話の音に、3人は同じように体を震わせた。
プルルル プルルル
プルルル プルルル
プルッ──……
「切れた?」
銀時の言葉に高杉と桂は無言で頷いた。
「おい万事屋ァ! いるのはわかってんだ。いい加減開けやがれ!」
「やれやれ……土方さん、アンタ一体どこの借金取りですかィ」
「黙れ、総悟」
「こういうときは、もう戸ごとキレイさっぱりフッ飛ばすしかないでしょう」
「しかなくねぇよ。ってか、器物破損はやめろ、器物破損は」
「じゃあ、人身事故の方向でよろしくお願いしまさァ」
「人身?」
「土方さんが、バズーカで狙い撃ちされてその勢いのまま突入すれば、あら不思議。パパッと解決でィ」
「あら不思議、じゃねぇ。明らかに殺人だろ。それ」
「うぅ。まだいるよあいつら。閉店セール待ちのおばさん集団ですか、コノヤロー」
プルルル プルルル
プルルル プルルル
再び鳴りはじめた電話。
プルルル プルルル
プルルル プルルル
「銀時、お前出ろ」
「はぁ?」
「俺達が出るわけにはいかないだろ。とりあえず、玄関前の真選組ではなさそうだ」
戸に映るシルエットを確認して桂が促した。
「っ〜……はい……」
『銀さん?』
「し…新八?」
受話器からした声に銀時は脱力した。
「はい、新八です」
公衆電話に10円硬貨を追加する。
「買い物終えて、戻ろうと思ったんですけど、歌舞伎町封鎖されちゃってて、入れないんです。建物への出入りも禁止。都心の電車もバスも運転見合わせ。車両は検問要通過だって。一国の要人なみの警備ですよ。スゴイんですね。高杉さんて」
要人じゃなくて、罪人だろう。国家を揺るがすほどの。
ツッコミ専門の新八のボケに、銀時にはツッコむ気力はない。
「それで、早いとこ撤退してもらったほうが良いんでないかと思って連絡したんですけど……そっちは大丈夫ですか?」
『大丈夫じゃねぇよ。既に真選組が玄関前で待機してるし、指名手配犯2人もいるし、居留守つかってるとこ』
「え? 桂さんもそこにいるんですか? 銀さん、その二人との関係、どう説明するんです?」
『できねぇから困ってんだろうが』
「ですよね……」
『ちょっ、シンちゃん!』
「なんですか?」