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□新ヤク『紅桜』〜とある1場面〜(完)
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※この話は劇場版を見ていない管理人が妄想のままに書き殴ったものです。 実はまだ見ていない……(6月4日現在)行きたいです。
 
 

新ヤク『紅桜』 〜とある1場面〜
 
 
 昨日は遅くまで飲んでいたから、今日は昼頃まで布団の中で過ごそう。
 そう思っていたのだが、それは部下たちの足音と襖を開ける音と声で叶わなかった。
 開ききらない隻眼を擦って、来島に突き付けられた紙に目を通す。
 
「──新訳『紅桜』……」
「そうなんスよっ、晋助様。しかも劇場版っス! スクリーンデビュー。興奮しますよね」
 
 「これで、女優にスカウトされたらどーしよっ。」と未来想像図を思い浮かべる来島に万斉が「おぬしにそれほどの才能をがあれば、拙者がとっくにスカウトしてるでござる」と呟くと、もれなく拳銃のグリップで殴打された。
 
「万斉、血で畳汚すんじゃねェ。気合いで止めろ」
「バカだねぇ。河上さん。いやぁでも、身体に負担かかるけど、嬉しいネェ」
 
 人体に寄生する紅桜を扱う似蔵は確かに命懸けである。
 
「あんた実はMッスか? 似蔵」
「俺は高杉さんのためなら身も心も捧げますぜ」
「晋助は若いほうが好みでござる。オッサンの身体と心なんかよりも、拙者のほうが」
「若い女子(おなご)のほうが良いに決まってるッス!」
「拙者と晋助のラブストリーを見せつけるでござる」
「なら、なおさら女子の方が良いッス!」
「いや、オッサン──」
「「オッサンなんかより、若いほうが好評に決まってる!!」」
 
 似蔵撃沈。
 オッサンとヘッドホンと猪女がきゃんきゃん言い合ってる横で高杉は一人溜息を吐く。起きぬけから彼らのこのテンションは頭に響くし、なにより劇場版に熱くなれるこの部下達の気がしれない。
 紅桜編といえば、似蔵の暴走から桂一派との対立が明確となり、そのうえ、かつての仲間に死刑宣告された一件ではないか。“新訳”ということで、江戸を焼け野原にさせてくれて、その上、死刑宣告シーンを銀時による高杉へのプロポーズシーンに変更してくれるのなら出演を考えてもいいが。
 
「拙者でござるよな!晋助」
「いいや、あたしッスよね!?」
「高杉さん!」
 
 視界いっぱいの顔面壁(がんめんクリフ)に、上半身をのけ反らせた。このメンツの必死の形相のドアップはキツイ。
 
「顔が近い!」
 
 高杉は手近にあった布団を連中にバサリと被せて、彼等が布団から逃れようとしつつ、互いの足を引っ張りあっている間に、藍色の寝巻から紫の地に黄色い蝶の舞う着物へ着替える。笠とキセルと財布と、出掛けの仕度を全て整えた頃、ようやく万斉、来島、似蔵が布団から脱出した……いや、どうやら万斉が布団の奪取に勝利しただけのようだ。「晋助の匂いがするでござる〜」とかほざいている。バカらしい。
 
「あら? 晋助様、お出掛けッスか?」
 
 万斉はあの状態だから、高杉の恰好に一番に気づいたのは来島だった。質問には答えず、代わりに、
 
「布団新調して、ついでにそこのゴミ始末しとけ」
 
 そこのゴミ──無論、万斉のことである。
 
「了解ッス」

 高杉が部屋を出たあと、中から「河上、大人しく死ねェェェ」という来島の声とともに数発の銃声が響いた。
 
 その後、大江戸湾で海を漂う、赤いフレームという特徴的なサングラスとか仕込み三味線などが目撃され、さらに血痕のついた空のスーツケースが発見され、殺人事件かと世間を騒がせたが、被害者と思しき人間は結局見つからなかったという。
 
 
 新ヤク『紅桜』 〜とある1場面〜 END
 
 

 

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