BOOK
□パラレルワールドって想像するもので、行くものじゃない。 1 (完)
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異世界へ
目を覚ますと、土方十四郎を覗き込んでいたのは、二足歩行のカエルとかチーターとかカラスだった。(カラスはもとから二足の歩行か)人間の体に動物の顔がくっついているという、映画ドラ●もんの『アニ●ル惑星(プラネット)』の世界のようだった。
やけに徒広(だだっぴろ)くて殺風景で、床にはドでかい魔法陣が描かれている。空気の流れも、外の雑音も感じない空間。鼻で感じるにおいも知らないものだ。
「お、目覚ましたケロ」
「気分はどうだカー」
語尾に鳴き声とは、わかりやすい。というか、人語を話す動物たち。まさかここは本当にアニマル惑星か。それとも夢でも見ているのだろうか。だとしたら、随分メルヘンチックなものだ。冷たい床に転がされ、後ろ手に縛られてるという状況に目をつぶればの話だが。
『……気分? ……わけ、だろ』
頭痛と吐き気と耳鳴り。夢にしてはリアルな感覚。それらが夢ではないことを教えてくれる。
そもそも十四郎は放課後の学校の図書館で掃除をしていたはずだった。そこに突然の地震。本棚が倒れて来て、十四郎はその下敷きになったのだ。いや、なったはずだったという方が正しいのか。振り回せば、その角で人ひとり殺れるんではないかという重さのハードカバーの本の直撃を本棚ごと受けたわりに体に痛みはない。
「空間を移動してきたわけだからチー」
十四郎は耳を疑った。カエルはケロ、カラスはカー、チーターは……チー? いや、ツッコミはそこでなくて、空間を移動とか言っていなかったか。
「しかし、お前も考えたもんだカー。確かに船に、 “この世界には存在しない人間” を直接召喚すれば、幕府にコトが露見するリスクも減るカー」
ところどころに理解しがたい言葉が入っている。
「まぁな。今は少し顔色が悪いが」
『ん……』
チーターは十四郎の顎を人間と同じ五本の指を持つ手でとらえると、値踏みするような視線をむけてきた。
「高く売れることは間違いないチー」
『売る?』
「そうだケロ。お前はあるお方のペットとして一生かわいがられるんだケロ」
『そのあるお方って、人間……』
十四郎は目の前の3匹の姿に、自分の考えを改めた。
『なわけないか』
「当たり前だチー。おまえら下等生物と一緒にするな」
ようやく状況が飲み込めてきた。自分は今人身売買されようとしているらしい。しかも、十四郎の “知らない世界” で。
『冗談じゃねぇ! 放せ!』
「カラッス、コイツの足抑えるっチー」
自由の利く足で抵抗を試みるも、カラッスとよばれたカラス(なんと単純な名前)に足首を掴まれる。それでも十四郎は力の限り暴れた。
「りょうかっ…… 痛てぇっ。ぐぶっ。こ、こいつなんて足癖の悪っ、がー」
「いっそのこと、パンツごとズボン下ろしてみるのはどうだケロ?」
『なっ!?』
重たくしっかりした学生服の上に対し、下は丸だし。スッポンポン。なんてアンバランスな。
考えるだけでも羞恥心から涙が溢れそうだ。だが、十四郎は堪える。理由は単純。
だって、男の子だもん。
カエルの手が十四郎のズボンのベルトにかかったときだった。足を押さえていたカラスが真横へ吹っ飛んだ。こめかみ(があるのかは不明だが)あたりに衝撃を受けたらしいカラスは吹っ飛んだ先で起き上がる気配を見せなかった。
「な、何ご──!?」
異様な事態に先程までカラスがいた左隣を向いたカエルは、鼻先に木刀の尖端を突き付けられ動きを停止させた。
「き、貴様何者…?」
「どーもー。正義の味方、万事屋でぇーす」
木刀を手にした銀髪天然パーマは口角をあげてニタリと、お世辞にも上品とは言えない笑みを浮かべて名乗った。
先に平静を取り戻したのは、チーターだった。
「万事屋とか言ったチー? 武器を捨てて床に伏せるっチー」
「この状態で自分の方が有利だとでも思ってんのか?」
「このガキの喉笛掻っ捌く」
腰に携えたナイフに手を伸ばすチーターに銀髪は頭の後ろを掻いた。
「別に俺、そこの坊やとは知り合いでもなんでもないし? それに、こういう仕事には多少の死傷者は付き物だよな」
『ただし──』
チーターは背後から後頭部に突き付けられた無機質な固い感触に背筋を凍らせた。いつ背後を取られたのか。
『──死傷者(ソレ)はお前らだ』