Season

□既に序章は
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既に序章は





「こんにちはー」


ノック音に続けて、明るい声がSP達の詰め所に響く。

ドアを開けて入ってきたのは、総理のご令嬢、相川。

夏に近づく季節にぴったりの爽やかな装いの彼女が部屋に入ると、中にいるSP達はそれだけで頬を緩ませる。


「いらっしゃい、相川ちゃん!」

「こんにちは、相川さん。今日は総理のところに?」


珍しく全員揃っているSPたちの歓迎を受けながら部屋へ入った相川は、持っていた紙袋をテーブルへ置いた。


「はい、お父さんの所にはもう寄って来たんですけど…」


紙袋から大きな包みを取り出しながら、相川は言葉を続ける。


「今日はお土産を持って来たんです」

「おみやげ?」

「はい、この間水族館に行ってきたので…」


そう言ってテーブルの上に並べた箱菓子には、水族館の名前と泳ぐ魚たちのイラストがプリントされている。


「みなさんで召し上がってください。クッキーとおせんべいです」


甘いのとしょっぱいのどっちがいいかわからなくて…と呟きながら、相川は大きなその箱をテーブルの中ほどへずずっと押し出す。


「わぁーい!ありがとー!!」

「おい、そら!包み紙はもっとキレイに剥がせ」

「昴さん、細かいっすよ…」

「…ん、クッキー美味しい」

「瑞貴!横から手を出すな!!」

「へぇ、せんべいにも魚のプリントがされてるのか…」


わいわいと盛り上がるSPたちを嬉しそうに微笑みながら見つめる相川に、クッキーを頬張ったそらが問いかけた。


「ところで、水族館って誰と行って来たのー?」


深い意味は無く聞いたそらが「演劇部の子?」と付け足す前に、相川が口を開いた。


「はい、石神さんと二人で……はっ!」


にこにこと答えた相川の言葉に、一瞬にして部屋の空気が変わる。

楽しそうにお土産をあさっていたSPたちは、動きをピタリと止め、仕事モードにでもなったかのような鋭い目つきへと変貌を遂げた。


「石神と……二人で、だと?」


あからさまに不快そうに眉を寄せた昴が、苦々しく呟く。


「相川ちゃん、何でスパイとなんか…?」


いつもの軽い調子は影を潜め、どす黒いオーラを噴出するそらの視線が相川を捕らえる。


「え、あ、あの、その…」


♪〜♪〜


そんなSPたちの様子に後ずさりしてしまう相川の携帯が、張り詰めた緊張の糸を断ち切るように暢気な音を奏でた。

慌てて鞄を探って携帯を取り出した相川は、わざとらしく明るい声で「あ、みどりからだ…」と呟き、失礼しますと頭を下げながら逃げるようにSPルームを出て行った。


そんな相川の後ろ姿を見つめながら、沈鬱な表情でそらがポツリと呟く。


「ねぇ、キャリア…」

「なんだ…キャリアって呼ぶな」

「俺…嫌なこと気がついちゃったかも」

「………たぶん、俺も同じこと考えてる」


二人はちらりと視線を交わし、大きくため息をついた。



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