車、自転車、歩行者。 通いなれたはずの道も、この姿では恐ろしいものばかり。 他の猫には追いかけられ、犬には吠えられ……命からがら走って逃げているうちに徐々にお腹も空き始め、見慣れた門構えを見つけた途端、安心して気の抜けた私の身体はその場に崩れ落ちた。 「……だい……ぶ……すか?」 微かな声が耳に残り、温かな手の感触を最後に私の意識はそこで途切れてしまった。 やがていい匂いで目が覚めると、ふかふかのタオルの上で寝ていた私。 ふんふんと鼻を鳴らしていると、上からいくつもの声が降ってくる。 「お?目ぇ開いたぞ?」 「良かったー、生きてたんですねー!」 「……随分ぐったりしてたが、怪我は無さそうだな」 「ね、お腹減ってんじゃない?」 「あぁ、そうだな……昴、何か食べさせられるものあったか?」 聞き覚えのある声……桂木班の人たちと真壁さん、それに公安の二人の後ろから、先ほど感じたいい匂いが近づいてくる。 「はい、ふやかしたご飯に鰹節を混ぜてみましたけど……」 「牛乳もあったろ?」 「人間用の牛乳は犬猫には不向きですよ、警部」 「良く知ってるな、石神……」 「ほら、食え」 目の前に置かれたお皿の中からうっすらと立つ湯気には鰹節の香りが混じり、濡れた鼻先をくすぐる。 その瞬間、ぐーきゅるると派手にお腹が鳴ってしまった。 「……すげーハラの音」 「どんだけ腹ペコだったんだよ、コイツ…」 呆れ顔で呟く海司と昴さんの視線を背中に受けながら、私はお皿に顔を突っ込んだ。 空っぽだった胃袋が満たされていく幸せな心地に、私は尻尾をふりふり夢中で鰹節ご飯を平らげ、続けて置かれた白湯をちろちろと舐めて喉を潤す。 「フニャァー…(ごちそうさまでしたー)」 最後にぺろりと口周りを舌で舐めとり、昴さんたちに向けて頭を下げた。 |