桂木さんの目の前で…あんな格好になるなんて… つい先ほどの出来事を、思い出すだけで顔から火が出そうだった。 幸い、私には丈の長いシャツだから下着丸出しにはなっていなかっただろうけれど。 火照る頬をそのままに、テーブルの上のカップをそっと手に取る。 桂木さんのいれてくれたココアの甘さと温かさが、体の芯に染みていくと、その穏やかさが混乱する頭と心を落ち着かせるような気がした。 何とか平静を取り戻し、ココアをすすりながら室内に目を向けた。 自分の部屋よりよっぽど片付いた部屋は大きなテレビを始めとして、様々な家電が整然と並べられている。 ぼんやりと、この部屋で過ごす桂木さんの姿を想像してしまう。 お仕事の前、帰ってきた後、お休みの日、どんな風に、誰と… …着替えたらすぐにでも帰ろう。 ひりつくような胸の痛みを感じながら、そう心に決めたその時、背後から声がかかる。 「おまたせしました、洋服が乾きました」 私は短くお礼を言って、渡された洋服の温かさを感じながら再び脱衣所へと向かう。 自分の服に着替え、脱いだ桂木さんの服を軽くたたむと…名残惜しげに胸に抱いて顔を埋める。 「あ、着替えは脱いだらその辺に置いといていただければ…」 「っ!!!」 ひょっこり顔を出した桂木さんの姿に、慌てて服から顔を離すが…桂木さんの驚いた表情から、見られてしまったことが分かる。 …見られた…! 一気に顔が熱くなり、落ち着いたはずの心臓がドクドクと音を立てる。 「あ、あ、あの、これ、ありがとうございました…」 「…いえ……」 着替えをそのまま桂木さんに押し付けて、その脇をすり抜ける。 「お邪魔しました…」 「あっ、帰るのでしたらお送りしましょうか?」 「傘だけお借りできれば大丈夫ですから…ありがとうございました」 深くお辞儀をして背を向ける。 これ以上ここにいたら羞恥と切なさで心臓が壊れてしまいそうだった。 …もう、顔を見る勇気もない。 唇を噛み締め、感情の決壊を堪えて足早に玄関へ向かう。 「まだ雨が強いですから…送りますよ」 穏やかな声に追い抜かれると、目の前には桂木さんの背中。 噛み締めていた唇を解き、はっと息を呑む。 何人もの人を守ってきた広いその背中に、私自身も何度も守られたことが瞬時に脳裏に甦ってくる。 と同時に、湧き上がってしまう焦がれる気持ち。 泣きたくなるほど、愛しい背中。 堰を切ったように溢れる感情のせいで、鼓動の音が自分の耳にまで響いている…そう思った次の瞬間身体は勝手に動いていた。 私はその背中に抱きついていた。 頬をすり寄せて、歓喜と不安に震える手に力を込めてぎゅっと抱きしめると、触れた所から感じる桂木さんのぬくもりが嬉しくて、涙が零れた。 |